ロンドン旅行記
〜ポリス編〜


<10/12・朝>

静かな朝がやって来ました。既に友人は起きています。
さすがに安眠できなかったのでしょう。かくいう私も眠りは浅く、薬と睡眠のお陰で少しは楽になっているのですが、絶好調とは言えない体をベッドから無理やり引きはがしました。

「おはよう」
机に向かってガイドブックを見ている友人に声をかけます。どうやらパスポートが無かった時に、ロンドンに滞在する為のホテルを、念の為に探しているようです。
智子さんとの約束の時間まで後一時間足らずです。相変わらずガイドブックに夢中になっている友人の背中を見て、今日もまた朝食を外で取る事は出来そうにないと諦めました。

時計が9時を指しました。少し遅刻をしてしまったと慌ててコートをひっかけ、急いで待ちあわせ場所のロビーに駆け降ります。
友人はまだ時間がかかりそうなので、彼女に部屋の戸締まりを頼み、私だけ先にロビーへ下りて行きました。辺りを見回すと、既に智子さんは到着しています。

「すみません。遅れてしまって」
「昨日、電話をもらったって友達から聞いて。パスポート、どうなりました?」
「それが、劇場に戻ったんですけど、出てこなくて」
「眠れなかったんじゃないですか?」
そう聞かれ、心の中で『すみません。彼女はどうか知りませんが、私は疲れて果てて結構しっかり寝ていました』とつぶやきます。神経が太いのかしら・・・・?
昨日のいきさつを説明し、会って初っぱなから迷惑をかけてしまって申し訳ないと思いつつ、これから警察に行って紛失届を書いてもらわなくてはならないと伝えます。
「すみません。一緒に警察に行ってくれますか?」
彼女は快く引き受けてくれました。

友人も漸くロビーに降りて来たので、三人揃ってまずはコンシェルジュのカウンターへ。智子さんが警察がどこにあるのかを聞いてくれます。
「え?警察!?どうしたんですか」
当然の事ながら、コンシェルジュは驚いて聞き返します。紛失届を出しに行くという説明に納得し、地下鉄チャリングクロス駅構内にあると教えてくれました。

ああ、智子さんが居ると心強いとホッとしてホテルを出ます。外は、昨日と打って変わって天気は晴れ。しかし、強い風が吹いています。私の薄いコートの中に風が入り込み、まっすぐ歩くのにも苦労するという感じです。

横断歩道を渡り、駅構内に入りました。しかし、どこを見ても警察は見当たりません。
「おかしいですね。私、ちょっと聞いてきます」
そう言って再び智子さんが道を聞きに行ってくれました。
「どうも、さっきの横断歩道を渡る前の道の方にあるらしいんですよ」
またロンドンの「三人ぐらいに道を聞いて、やっと目的地に辿り着く」が始ったと話します。

再び横断歩道を渡り、少し入り込んだ所を覗いてみると、やっと警察がありました。 日本の交番より分かりにくく、ぱっと見には普通の建物です。ドアを開けて中に入ると、カウンターのような所に警察官らしき人が立っていました。狭い部屋の周囲には、ベンチが取り付けられています。石で出来た床と二階へ続く階段を見て、ここは特別なのかもしれませんが、日本の派出所とは違って、なんてきれいなんだと驚きます。
早速智子さんが届け出がなかったか聞いてくれます。ああ、本当に心強い!
警官が大きなノートの様なものを取りだし、次々に書類をめくっていきます。
「ありませんね」
という返事にやっぱり・・・とがっかりします。紛失届けを書いて下さいと、智子さんが再び頼んでくれます。
その時、ふとコートの裏(取り外しが出来る)をホテルの部屋に置き忘れてきてしまった事を思い出しました。
ロンドンでこれだけ風が吹いていたら、郊外のウィンザーはもっと寒いに違いない。風邪はひいているし、風は強いし、これは温かくしていかなければ大変な事になりそうだという事で、迷惑をかけるとは思いつつも、書類を書いてもらっている間だにホテルに戻って、コートの裏を取ってくると告げ、私だけ再びホテルに戻りました。

・トラブル中につき、写真を撮っている場合ではありませんでした。
上の写真は本文とは関係ありませんが、バッキンガム宮殿周辺の建物です。(著者撮影)

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