ロンドン旅行記
〜チャイナ・タウン編・1〜


<10/12・夕方>

コートの襟を立て、風が中に入り込まないようにしっかり前をとめます。暗くなった街に人はますます溢れ出て来ていました。

レスタースクエアー周辺は、古い言い方をすれば歓楽街のようで、レストランはもちろん、クラブ(古い言い方をすればディスコ)も随分ありました。店の前の広場のような広い歩道では、ストリートパフォーマー達が所せましと自分の舞台を作り上げています。バンドはもちろん、大道芸人も出ています。自分の気に入ったものの前で立ち止まる人と、これからどこかへ行く為にそこを通る人でごった返していました。はぐれないように気をつけて私たち二人は智子さんを追いかけています。

人込みを抜けた所にある信号の前で立ち止まり、ここを右に曲がると教えてもらいます。「横断歩道を渡った所にあるニューススタンドでサンデー・タイムズを買っていきます」というのを聞き、そうか!AMPの記事が出ているかもしれない!と思い、もし出ていたら私も買って行こうと思います。
ニューススタンドに積まれた、日本ではこんな新聞見たことがないというほど分厚いサンデー・タイムズを一つ持ち上げ、智子さんがスタンドのおじさんにコインを渡します。その重量に驚き、見せてもらってから私は買う事にして、チャイナタウンに向かいました。

先ほどまで歩いて来たロングエイカーから少し狭い道に入ると、辺りは急に静かになりました。坂道をのぼって行くと、狭い道の向こうに小さな映画館があります。
何をやっているのかと見てみると、レオナルド・ディカプリオの「ロミオ&ジュリエット」でした。
今頃?遅いなぁ・・・と横目でポスターを見ながら更に坂道をのぼります。すると、ついに始りました。中華料理店です。

急にあたりは日本の横浜、長崎、神戸と同じような雰囲気になって来ます。店頭に吊るされた豚の丸焼きの登場には、何だか懐かしさまで感じてしまいます。
おお、豚だ豚だと思ってふと右を見ると、おなじみの中華街の門がドーンと立っていました。何処にあっても中華街にはこの門がついています。風水にのっとって建てているのだろうなぁと門を見上げ、道路を渡り、その下をくぐります。

門をくぐり抜けると、そこには中華料理店がずらっと並んでいました。おお、凄い!中国人って本当にどこにでも中華街を作ってしまうのね!と驚きます。
智子さんお薦めの、門を入って端から3軒目の右側のお店「ゴールデン・ドラゴン」(28-29Gerrard St.W1)に向かいます。店の前には漢字の看板がつけられ、入り口にある写真入りの看板には、おいしそうな中華料理が並んでいました。

入ろうとすると、二階に行くように言われたので、三人揃って階段をのぼりはじめます。トントンとのぼって行くと、少し大きめの部屋に辿り着きました。
一階もそうでしたが、ここのテーブルもほとんどがうまっています。はやっているなぁと店内を眺めます。お客さんは中国人らしき人ももちろん居ますが、イギリス人が多く、私たちのような日本人も中にはまざっている様です。すぐに丸いテーブルに案内されました。
室内に入って急に暖かくなったので、私の鼻は再びぐすぐすして来ました。もう、いやだなぁと思う暇もなく、くしゃみが出てきます。

ほどなくして、ウェイターがメニューを持って来ました。店員は全て中国人です。置かれたメニューを見ると、日本語も並んでいます。ウェイトレスが運んできたお茶に、このただでお茶を出すというのは、日本と中国ぐらいのものなのかしらと思います。

「ここには日本語のメニューがあるんですね」と智子さんに言うと、
「でも、この日本語がちょっと怪しくって」という返事。
見てみると、確かにこれは?!という訳が色々ありました。五目炒めや、焼きそばといったものはちゃんと訳せているのですが、どうもおかしい訳があります。
あちこちに登場する、「もろい牛肉」「もろい豚肉」「もろい鳥肉」・・・
「この”もろい”っていうの、何でしょうね」
「ね、そうでしょ?」
これはぜったい「やわらかい」の間違いだという事で、意見が一致します。どうしようかと相談し、結局オーソドックスに五目焼きそば、エビチャーハン、チンゲンサイと厚揚の煮物をとる事に。更に、冷えた体にスープが欲しいという事で、各自好きなスープを取る事にしました。

先ほどメニューを持ってきたウェイターがオーダーを取りに来ます。智子さんが英語で注文をしてくれるのを聞いていると、彼女が
「えっと、後何でしたっけ?」と私たちに聞きました。
「五目焼きそばです」
と答えると、何とウェイターが「五目焼きそば」と言いながら伝票に書いたのです。
全員で顔を見あわせ、「えっ?」と言っているのを背に、彼はさっさと立ち去って行きました。

「日本人でこれを頼む人、多いんでしょうね」
と話し、三人で顔を見あわせて笑います。
料理を待つ間、先ほど買った新聞を智子さんが見せてくれました。アートの欄を見ると、やはり出ていました。美しくなったシンデレラ(サラ)のドレスのスカートが翻った写真が、カラーで掲載されています。
しかし、スカートが翻りすぎてサラの顔は隠れています。これは絶対買って帰ろうと心に決めます。
そうこうしているうちに、最初の料理が来ました。スープです。見慣れたレンゲと陶器の手に入るぐらいの小さめの茶わん、そしてそこに溢れるほどになみなみと入れられた五目スープ。
いよいよ、ロンドン中華初体験が始ろうとしていました。

・上の写真は本文とは関係ありませんが、ウィンザー城内部です。(著者撮影)

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