ロンドン旅行記
〜ブリティッシュ・エアウェイズ・ビル編〜


<10/13・午後>

時間は休むことなく過ぎていきます。熱は薬が効いてきたのか、かなり下がってきたようです。英国航空の地下にあるソファーに座りながら、私は考え込んでいました。
おかしい、時間がかかりすぎている。日本総領事館に行って帰るだけなら30分もあれば十分なのに、2時間以上たっているなんて、絶対におかしい。どうしよう。一人で行かせたのは間違いだったのかしら・・・
じっとこのフロアーの入り口をみつめますが、彼女は現れません。
もしかすると、最悪の場合彼女だけロンドンに数日残る事になるかもしれない。そうなったら英語の全く出来ない彼女の為に、帰国出来るまで滞在するホテルの手配と航空券の入手をしていかなくては。でも、彼女を一人で残していくなんて出来ない。何があっても絶対に一緒に連れて帰らなきゃ!と風邪でぼうっとした頭で考え続けます。
それにしても遅い・・・どうしたのかとても心配になって来ました。

人影を見ては友人かと思い、現れた人を見てがっかりするというのを先ほどから繰り返しています。時計を見ると3時40分を過ぎています。どうしよう、これでこの上迷子とか?と心配が膨れ上がってきた時、階段を友人が下りて来ました。良かった!と安堵し、重たい体を起こして彼女を待ちます。 私の座っているソファーの横に立ち、彼女が荒い息をつきながら私に話し始めました。

「どうだった?」
「それが、日本総領事館に戻ったら、渡航書を発行するにも私が本人かを証明するものが必要だって言われて、パスポート以外持っていませんって答えて、パスポートは無くしているから、それなら日本の親のところに電話して確かめるとか言ってたんだけど、今うちの親は旅行中だから居なくって」
彼女の話しが何処に辿り着くのか、私は辛抱強く待ちました。
「そうしたら、警察から連絡が入ったって言われて」
ここまで来たとき、私は大声で聞いていました。
「もしかして、見つかったの?」
と聞くと、
「うん。それで今、劇場まで取りに行ってきたんだけど」
どうして最初に見つかったと言わないのかと思った瞬間、緊張の糸がほぐれて、私の目から涙がポロポロとこぼれて来ました。
「良かった、良かった」
落とした本人の横で、私だけがばかみたいに、良かったを繰り返して泣いていました。
「ごめん。ごめんね」
はじめて友人が謝りました。日頃めったな事では泣かない私はその場に居ていられなくなり、荷物を友人に預けて急いでトイレに駆け込みました。自分の顔を鏡で見ると、かなり変な感じです。見ていると何だか自分がおかしくなって、泣きながら笑うという奇妙な状態に陥りました。

少し落ち着いたので友人の元に戻り、先ほど掛け合った英国航空のカウンターへ行って知らせなきゃならないと告げます。思わぬ展開にあしどりも軽くなり、二階へあがりました。
先ほどのカウンターには、同じスタッフが座っています。私たち二人を見ると、ああ、さっきのという顔をしました。
「みつかったんです!」
と言った途端、スタッフの顔にも笑みが広がりました。
「良かったわね、何処にあったの!」
心の底から喜んでくれている様子です。劇場から警察に連絡が入り、警察から大使館にパスポートが出てきたという情報が入ったという事を告げます。
「もう何も問題はないはね。良かった」
スタッフがそう締めくくり、お礼を言って二人でさよならを告げ、カウンターを離れます。

階段を下りてインフォメーション・カウンターを通り過ぎ、英国航空のビルを出ます。外に出ると、気分が軽くなったせいかリージェント・ストリートが今までとは違って見えました。
そして、ピカデリーサーカスの駅に向かう道すがら、漸く私は友人から今までの経過を詳しく聞く事が出来ました。

・トラブル中につき、写真を撮っている場合ではありませんでした。
上の写真は本文とは関係ありませんが、バッキンガム宮殿前の広場です。(著者撮影)

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