ロンドン旅行記
〜買い物編・4〜


<10/13・夕方>

時計の針が6時をさしました。アップル・マーケットにあるボディーショップの前に立ち、腕時計で時間を確認します。

マーケット内は相も変らずヴァイオリンの音が鳴り響いています。戸締まりを始めたお店を眺めながら友人を待ちます。
さすがに店じまいは早く、だんだん人どおりが少なくなってきました。6時と約束したのに、友人は5分たっても、10分たっても戻ってきません。
まさか、迷子になっているなんて事は・・・と嫌〜な考えが浮かんできます。でもまあ、時間に正確な方ではないので、大丈夫と思い直します。それにしても遅い・・・別行動にしたのはやっぱり失敗だったのかしらという考えが頭に浮かびます。日本出発時からはぐれ、テートギャラリーでも一度はぐれかけたし、あの事件があり・・・と不安が徐々に増大してきました。

そして、時計とにらめっこをしはじめてから30分近く経った頃、漸く友人がこちらに向かって歩いて来るのが見えました。良かったと胸をなで下ろします。手にはお土産が握られており、その表情はいつもと同じ。遅刻したという意識はほとんどないようです。
「ちゃんと買えた?」
「うん。でもまだ会社用のお土産が買えてなくて」
「例のスーパーに行く?」
そこで早速水を買いに通っているスーパー「TESCO」へ。慣れた店内に足を踏み入れます。 「奥に体裁のいい箱入りのお菓子があると思うんだけど」
店内は夕飯用の買い物をする人で賑わっています。今日はもう買う必要のないミネラルウォーターの前を通り過ぎ、お菓子の売り場に着きました。商品を見始めた友人はすぐに、
「チョコしかない。嫌いな人がいるからなぁ・・・明日空港で買おうかなぁ」 と言い、速やかに退散。ホテルへ戻る事になりました。

帰る道すがら、何を買ったのかを話します。そこで、彼女もアクセサリーズでマフラーを買った事が発覚。見せると、
「ああそれ、私どっちにしようか迷って結局やめたのだ。もし買ってたらおそろいだったね」
という答えが返ってきました。お互い、結局自分へのお土産はささやかだねと話し、マフラーのタグを見ると「イタリア製」なんだ、なんだ、そうだったのか!イギリス製じゃなかったのねと、ちょっと悔しくなりました。
「ところで、トラベラーズ・チェックはちゃんと使えたの?」
「それがね。なかなか言葉が通じなくて。意地悪しているとかじゃなくてね、通じないのよ〜。でも、ジェスチャーとかで通じると、皆『ああ!』っていう感じで分かった分かったってうなずいてくれるんだけど。で、使う度にパスポート出してたの。ほら、コピーを大使館で渡しちゃったから」
お店でいちいちパスポートを出していた?何と恐ろしい事を・・・と思いましたが仕方なかったのでしょうが、前科がある彼女だけに、後で聞いても不安になる話しです。
「でも、私パスポートのコピー2枚持って来てねって言わなかったっけ?」
と言ってみました。
「そうだったっけ?」

再び、なかなか来ないエレベーターの前に今度は二人で立ち、下りてくるのを待ちます。
漸く来たエレベーターに乗り込み、締めようとした時、黒人男性のホテルのスタッフと、着いたばかりらしい30代ぐらいの日本人女性一人が乗り込んできました。上に移動する間、静かなエレベーターの中でその女性は
「日本の方ですよね?」
と声をかけて来ました。
「そうです。着いたばかりなんですか?」
「ええ」
あっという間に彼女が下りる階になり、互いに別れを告げ、彼女は下りて行きました。後に残ったのは友人とスタッフ、そして私の3人。
すると、そのスタッフの男性がにっこり笑っていきなりエレベーターの中でタップを踏み始めたのです。
その見事な足さばきに思わず二人で拍手。少々面食らっている私たちに彼はいたずらっぽい笑顔を向けます。凄いと称賛していると、どうやら彼の用事のある階に着いたらしく、ウィンクをし、彼は素早くエレベーターを下りて行きました。

びっくりしたけど面白かったねと話ながら、漸く部屋へ到着。二人ともベッドに腰掛けてしばらくぼうっとしてしまいます。私はブーツを脱ごうとファスナーを下ろした時、靴底がとれかけている事に気が付きました。つま先から指の付け根あたりまでの底がめくれています。

「えーっっ!真新しいブーツだったのに!!!」
石畳の道というのも靴を傷めやすい原因だったとは思いますが、この数日間、いかに歩き回ったかを実感させられた瞬間でした。
「どうしよう・・・応急処置でボンドで貼った方がよさそうようね。ちょっとスーパーに行ってもいい?夕食を食べる前に寄っていこうかな」 という訳で、早くしなければスーパーは終わってしまうかもしれないので、再び出発。

記憶を辿ってみると、先程の「TESCO」にボンドは置いていません。仕方なく、まずはホテルの前の通り、ストランドに面したお店を見て回ることに。チャリングクロスとは逆方向に歩き始めました。
ところが、既にほとんどの店が閉店しているのです。ないねと言いながら、いつしか足はロイヤルオペラハウスの方へ。こっちに行ってもないなと思いつつ、ロンドン最後の夜を楽しみたいという思いもあって、ついつい見たい場所に足が自然と私を運んでしまうようです。

坂道を登るとまず劇場博物館が目に入りました。ショーウィンドーにはチュチュを着た人形が飾られています。うーん、見たかった!今度来る時には絶対ここに来よう!と心に決め、前を通り過ぎます。
その近くには「ジーザス・クライスト・スーパースター」をやっている劇場がありました。更に、オペラハウスの近くには「ミス・サイゴン」がかかっているドゥルリー・レーン劇場が。
うーむ・・・ホテルから徒歩5分ぐらいの場所でこんなにミュージカルをやっていたのに、一本も観ずに帰るなんて!とAMPとロイヤル・バレエをしっかり観たにも関らず、何だか残念に思えてきました。

歩いて来た場所が悪かったのでしょうが、どこにもないスーパーをあきらめ、夕食をとろうという事になりました。ガイドブックにあったイタリア料理店に行こうという事になり、探し始めますがなかなか見つかりません。
場所的にはオペラハウス付近のはずです。おかしいねと言いながらアップル・マーケットとオペラハウス、ドゥルリー・レーンの辺りをてくてくと歩き続けますが、何故か見つからないのです。
さんざん探した揚げ句、遂にあきらめる事に。ストランドの方に下りて行く事になりました。今来た道を戻ります。
再びロイヤル・オペラハウスの前を通りがかった時、友人が言いました。
「ここ、ロイヤル・オペラハウスだよね。いつもならここでロイヤル・バレエの公演があるんでしょ?」
「そうよ」
「ここでパスポートを落としたら良かったのにね。それなら歩いてすぐ取りに来られたのに」
「そもそも、落とすのが悪いのよ!」
友人の冗談というより、本気らしい口調に再びトホホとなりながら、最後になってしまったロンドンの夜の街を二人、てくてくと歩き続けました。

・上の写真は、ミュージカルの宣伝用リーフレットです。
左から、バディ、スターライト・エクスプレス、オリバー!です(著者撮影)

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