ロンドン旅行記
〜最後の夕食編〜


<10/13・夜>

ボンドは入手出来たものの、まだ貼り付けていない靴底は、未だにペロン、ペロンとめくれています。更に悪いことに、そのペロンが、左右両方になってしまいました。早くホテルに帰って貼り付けようと思い、真剣に夕食を食べるお店を探し始めます。
「何が食べたい?」
と聞くと、
「私、ほら、例の劇場に行ったタクシーでお金なくなっちゃったから安いところがいいなぁ」
そ、そうなのね。パスポートが見つかったお祝いをするなんて事は全くないのね。
「じゃあ、簡単にスパゲティかなんかにする?」
最後の最後までイギリスらしいものは食べられないのか・・・と思いましたが、まあ、風邪と疲労でボリュームたっぷりという食事を取りたいとも思わないので、仕方ないわねとあきらめます。

チャリング・クロス駅の前の横断歩道を渡り、トラファルガー広場側に移動しました。そこを右に折れ、ホテルに向かって歩き始めます。
駅からホテルの間にはレストランが並んでいるのです。お店の外にあるメニューを覗きながら食べる所を探します。

その途中、ミュージカル「シカゴ」のプレミアを数日後に控えたアデルフィ劇場の前を通り過ぎました。今夜も入り口には人が眠っています。ここはホームレスらしき人達の休憩所になっているようで、昼は昼で入り口のステップに腰掛けて休憩している人が数人常に居るのです
。ガラスのドアから中を覗くと、そこには舞台美術に使われるであろう柱のようなものが床に放りだされていました。地下鉄にベタベタと沢山貼ってあるシカゴのプレミアは10月28日。それまでここで眠る人達は安泰なのでしょう。

再びメニューを覗き込み、お店を見てまわります。そして漸く適当な店が見つかりました。
日本でいうならファミリーレストランといった感じでしょうか。チェーン店になっているらしい、気軽なお店に足を踏み入れます。中に入るとすぐに、サラダバーの近くに立っていたスペイン系らしいウェイターが、こちらにやってきました。入り口近くの窓際の席に案内され、メニューを渡されます。
きっと疲れきった顔をしていたのでしょう。
「元気?」
と彼が聞いてきました。
「ええ、大丈夫よ。ありがとう」
と、答えます。立ち去る彼の背中を見送り、友人と
「私たち、相当疲れて見えるのかなぁ」
と話します。
「それにしても、パスポートよく出てきたよね」
とにこやかに話しを振ると、
「本当よね。でも、これで運を使い果たしていたりして」
という答えが返ってきました。
「やめてよ!飛行機乗る前に」
「あ、でも私は大丈夫。前にほら、占いで飛行機が落ちてもあんたは生き残るって言われたから」
「そ、それは凄い・・・」
ガラスの外に目をやると、ストランドを行き交う車が見えました。

メニューの中から二人ともミートスパゲティーを選び、再びウェイターを呼びます。
「ミートスパゲティー2つと、ミネラルウォーター、スティルを2つ」
「それだけでいいの?」
「ええ」
「本当に?サラダとかは?」
「いらないわ」
小食だと思ったのか、シケタ客だと思ったのか、相当疲れていると思ったのか。彼はまだ何か言いたげな顔をしながら、くるっときびすを返して奥に入って行きました。
ほどなくして、水がテーブルに運ばれました。グラスに注いでから、小さなペットボトルをテーブルに置きます。冷たい水が私をほっとさせてくれます。
次に、ミートスパゲティが目の前に現れました。ちょっとパスタが太めかな?という感じです。フォークを手に取り、さっそく味見をしてみます。
こ、これは・・・日本のファミレスと同じような感じ。食べられない事はないけど、結構まずいという代物です。味の決めてがないというか、パスタがおいしくないというか。
とにかく料理を片付けているという感じで、口に運んでいきます。
まあ、明日日本に帰ったらおいしいものが待っているわよ!と自分で自分を励まします。自分で作ったパスタが食べたい・・・でも、母の作った和食がもっと食べたい・・・・帰ったらあれを食べて、これを食べてと考えながらロンドン最後の夕食が終了。精算を済ませ、早々にホテルへ戻りました。

部屋に辿り着き、早々に着替えを済ませてブーツの修理に取り掛かります。ボンドの説明を読み、早速靴底に塗り込みました。その横では友人が電話を前に考え込んでいます。怒り狂っているらしい自宅に、彼女は電話しなければならないのです。<

「どうやってかけるの?」
イギリスに来てから初めて家に電話をかける友人が質問してきました。
「KDDにかけて、クレジットカードナンバーと暗証番号を入れて、自宅の電話番号をかけるのよ」
ブーツの接着面をしっかり押さえたまま答えます。
「暗証番号・・・・私の暗証番号って、何番だっけ」
「・・・・・・・」
おいおい、と思わず心の中でつっこみを入れます。
「・・・・これからな?あ、これかなぁ。とりあえずかけてみよう」
漸く心の準備が出来たようで、彼女が受話器を持ち上げます。カードナンバーまでスムーズに進み、次が暗証番号です。
「あれ?違うか。エラーがおこっちゃった・・・わかった!あっちだ」
などとぶつぶつ言いながら、どうにかクリアー。自宅の番号を回します。すると、待ち構えてたのか、2コールぐらいで相手が出ました。
いよいよ、恐怖の始りです。

・上の写真は、ミュージカルの宣伝用リーフレットです。
左から、ジーザス・クライスト・スーパースター、マルタン・ゲール、美女と野獣です(著者撮影)

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