ロンドン旅行記
〜ヒースロー空港ターミナル4編・3〜


<10/14・午前>

私は今、ターミナル4にあるハロッズのショップの前に立っています。
思い起こせば3日前。あのひどいアフタヌーンティーと、がめつい経営方法で、すっかり私の敵となったアルファイド氏。その彼が経営するハロッズがまた私の目の前に、魅力的な商品を並べて現れました。
悔しい・・・悔しいけど、また私の足は店に足を踏み入れてしまうのです。ああ、あの時に「もうこれ以上、アルファイドに一銭も渡さない!」と誓ったというのに・・・

ハロッズは他のお店に比べ、広い店舗になっています。まず壁にそって作られているお店はトート・バッグやミニ・カー、テディー・ベアなどのグッズが。そしてその奥には紅茶やチョコが置かれています。その店の前には向かい合わせの状態で、言うなれば大きな通路の中央に、もう一軒ハロッズが出店しています。
こちらは高級デパート・ハロッズらしく、ブランドもののバッグや財布、アクセサリーや食器などが置かれていました。

ブランド品の店には目もくれず、とにかく小物のチェックを始めます。まずトート・バッグの点検。私が買ったバッグのうちの、黒地にスコッティーの柄のものはここには並んでいません。やっぱり本店とは品ぞろえが違うのねと、ちょっと満足。
ハロッズ・グッズはまだまだ続き、お決まりのテディベア、クリスマスのオーナメントなどが所狭しと並べられています。その奥には紅茶とチョコが続きます。今回はもう紅茶はいいかな?と思いつつ、一応商品を見て回ると、気になるものが登場しました。
白い木箱に入ったそれの名前は「ファースト・フラッシュ/ピュア・ダージリン・ティー」
これは、おいしいかもしれない!!!紅茶派の私の興味が一気に湧きあがります。これは買わないと、絶対後々後悔するに違いない。仕方なく、一つ手に取ります。ああ、またアルファイドをわずかながらも潤わせてしまうのね・・・
次にハロッズで買ったブック型チョコを発見。何だ、ここで買えば良かったとがっかりします。そこで、先程散会した友人を発見。彼女もハロッズにひっかかっていたのでした。

「何かいいのあった?」
「会社の女の子達に、迷惑かけてるからチョコを買っていこうと思って」
見ると、その手には花柄のきれいな包装紙に包まれたチョコが3つ持たれていました。そして、もう一方の手にはテディー・ベアが。
「それは?」
「くまは自分へのお土産」
ジョイントなしの、手足首の動かないテディベアが、私を見ています。
「まだ見るところある?ここで会ったから、集合場所はここに変更。20分後ね」
そう言って私はレジに向かいました。さすがにここは人気があるようで、数人待たなくてはなりません。その間、改めて店内を見回します。
イギリスを訪れる時、ハロッズの商品を買いたいと思う人結構居ると思うのですが、フリークでない限り、だいたいの物はここにある商品で満足出来ると思います。
トートバッグ、紅茶、テディー・ベアといった基本的な物は一応一通り揃っているのです。これなら、あの混雑しているナイツブリッジまで行かなくても十分買い物が楽しめます。
今度来る時には、もう絶対にナイツブリッジには行かないなと確信し、支払いを済ませて店を出ました。

次に探したのは、ノイハウス(neuhaus)のチョコレート。元来私はどちらかと言うと甘いのもが苦手で、チョコ好きではないのですが、ここのチョコレートだけは好きなのです。前回のイタリア旅行の時、乗り換えをしたフランク・フルトの空港でノイハウスのチョコを買って以来、ずっと今度はもっと沢山の種類が入った詰めあわせを買って帰ろうと心に決めていました。

既に黄色の紙と緑色のリボンで包装されているノイハウスのチョコの箱を見つめ、どのサイズにしようかと考えます。結局ハロッズのチョコもあるし、そう大きいのじゃなくてもいいかという結論に達し、前回よりは大きいという程度の箱を選んでレジに行きました。

チョコを買うともうする事は全て終わりです。友人を探すべく再びハロッズに戻ります。そこで思った通り友人を発見。彼女が精算を済ませた時点でする事が無くなったので、指定されたゲートに向かう事にしました。

長い通路を歩き、搭乗口付近のベンチに腰掛けます。既に乗客は集まってきており、久々に日本人の集団を目にしました。買物が終わり、ただ座っていると何だかお腹が減ってきます。先を見越して機内持ち込みにした、日本から持ってきたお菓子を出して食べようかと思い、まずはミネラルウォーターを調達する事にします。
「私、水買ってくるから荷物見ててね」
先程から再び黙ってふさぎ込んでいる友人に、そう声をかけて立ち上がりました。 私たちが座っている場所から見える所にある売店に入り、水を購入します。これでポンドは全てなくなり、数枚のペンスが手元に残りました。ここにユニセフの募金箱があれば入れるのに(帰国の際にいらなくなった小銭を入れる募金箱がある)と考えつつ、小銭を財布に入れます。

再び友人の待つベンチに座り、話しをはじめました。
「もうそろそろ、搭乗の案内が入るね」
「・・・めちゃくちゃブルー」
また友人の鬱状態が始りました。
「ああ、帰りたくない」
またです。私もさすがに言う言葉が見つからず、
「お菓子いる?」
と話しを別の方向に持っていこうとしました。でも、またしばらくすると
「あー、帰りたくない」
そう繰り返す友人の横で、私は水を飲み、お菓子を食べ、風邪が完治していないなぁとぼんやりと考えて搭乗の放送が入るのを待っていました。落ち込む友人と、疲れた私は言葉を交わすでもなく、ひたすら待ち続けています。

「お客様に申し上げます」
ここで、いきなり日本語の放送が始りました。
「凄い、日本語だよ。イタリアのリナーテ空港なんて英語のアナウンスすら入らなかったのに!」
一人驚き、騒いでしまいます。
「英国航空では、お客様の安全の為、手荷物をお一人様6kgまでと制限させて頂いております。これをオーバーなさる場合は、積み荷とさせて頂きますので、御了承下さい」
この放送に、急に待合室がザワザワしてきました。皆、かなりの荷物を持っています。かく言う私も、ちょっと不安を感じていました。 漸く搭乗が始り、長い列に加わります。見ると、入り口には量りがちゃんと置かれています。しかしこれは本人の自己申告、もしくは見るからにオーバーしているお客さんだけがチェックされているようで、私は事無きを得て通過する事が出来ました。

来た時と同じ作りの機内に足を踏み入れ、行きとは逆に友人が窓際、私がその隣に座ります。そしてその隣には、私と同じぐらいの年齢の日本人女性が座りました。辺りを見回すと、ほとんどが日本人、しかも20代ぐらいの女性が席をうめていました。
その中に、黒一点と言いましょうか。20代後半か30代ぐらいの男性が一人腰掛けました。そして、座ると同時にタバコに火をつけたのです。
その瞬間、この場の空気は凍り付き、次に彼は周囲の女性全員から鋭い避難の視線を浴びたのでした。
「ここ、禁煙席なんですけど」
全員の言葉を代表して、隣の女性が彼にそう告げました。その空気に押されたのか、彼はそそくさとタバコを消し、謝ります。

再び平和な雰囲気になった所で、いよいよ離陸準備です。シートベルトのランプが付き、禁煙サインがともります。機内放送が入り、漸く離陸の時がやってきました。思わぬ事件で、これ以上ないという程のスリルを味わった旅が終わろうとしています。エンジン音が響き、飛行機が動きだします。離陸と同時に窓の外に見えるらしいウィンザー城を探し、友人と一緒に窓の外をのぞき込みました。
「ああ、ウィンザー城だ!」
それが、この旅で私が最後に見たイギリスでした。

・上の写真は、余りはっきりしていませんが、飛行機の中から見たウィンザー城です。(著者撮影)

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