◆◇◆ 鑑賞レポート byなつむ ◆◇◆


 映画「リトル・ダンサー」(原題"BILLY ELLIOT")の舞台は1984年イングランド北東部の炭坑の町。炭坑そのものの存続が危ぶまれている中、町は炭坑夫のストライキ一色となっている。
主人公のビリー・エリオットは炭坑夫の父と兄、祖母との4人暮らし。そして、ビリーの成長と家族愛の物語が始まる。

 ここのところ、何かと話題のイギリス映画。有名なところでは「トレイン・スポッティング」「ブラス!」「フル・モンティ」などが挙げられるが、この「リトル・ダンサー」も間違いなくその仲間入りをするだろう。

 まず、この映画を語る上で最初に書かなくてはならないのは、主人公ビリー・エリオットを演じたジェイミー・ベルである。2000人を越えるオーディションの中から選ばれ、今や英国ですっかり人気者になった少年ジェイミー。彼を見付けだす事がでなければ、この映画は全く違う作品になっていた事だろう。

 ビリーは一生のうちで一番辛いとも言える別れを、11歳にして既に経験している。そのせいかビリーは子供でありながら、ある意味とても大人びた、懐の深い少年だ。
そんな彼の少年らしさ、やさしさ、葛藤、ひたむきさ、素朴さなどをジェイミー・ベルはまるで本人かのように、自然に演じている。いや、演じているという言葉が当てはまらないほど、自然に体現している。
最初の登場ではジャンプしている普通の男の子という印象を受けるが、見ているうちに観客はどんどん彼の表情、彼のしぐさに引き付けられ、次にその表現力にはっと息を飲むのである。
映画ではよくある事だが、一本撮り終えるまでに役者がどんどん良くなっていく事がある。この中のビリーもそんな印象を受けた。

  個人的には、ベテラン女優ジュリー・ウォルターズと二人リングの上で語るシーンでのジェイミーの顔が、何ともいえず心に残っている。
そして、彼を語る上で忘れてはならないのがダンスである。映画のなかでは11歳にして初めてクラッシック・バレエに出会う男の子なのだが、ジェイミー自身は6歳からダンスを習っていたらしい。中でもタップは得意らしく映画のあちこちで披露してくれる。
まだまだ粗削りな彼の踊りだが、「とにかく踊る事が楽しくて仕方がない!!!」という気持ちがダイレクトに伝わって来て、正しくこの映画が欲する所を見事に表現している。
ビリーのダンスは時に心の言葉であり、コミュニケーションの手段である。そして、ジェイミーのダンスはビリーがダンスをどう感じているのかを聴覚ではなく、視覚を通して観客に語りかけてくる。
良くこれほどまでにこの役に合った俳優を見付けられたものだと驚くと共に、見つかった事に感謝したくなる役者ジェイミー・ベルの登場であった。

 この他にも、恩師を演じるジュリー・ウォルターズ、父親役ゲアリー・ルイス、親友マイケルを演じる新人ステュアー・ウェルズなど、魅力的な俳優が揃っていて、全編を通して目が離せない。
 舞台出身の監督、スティーヴン・ダルドリーはこの映画が長編映画デビューらしいが、的確なキャスティングで物語に破綻を来す事なく、丁寧に手際よく話しを進めている。
また、「トレイン・スポッティング」や「シャロウグレイブ」「チューブ・テイルズ」などを手掛けている撮影監督、ブライアン・トゥファーノの絵もいい。
ビリーが狭い壁に囲まれた中で踊るシーンでは、ふと「トレイン」のユアン・マクレガーの有名なシーンを思いだしてしまったが、基本的にはダニ−・ボイル監督作品とは違った映像に仕上がっている。

 そして、最後に忘れてはならないのはこの人である。ダンサー、アダム・クーパー。映画の最後に彼は本当に数分間だけ登場するのだが、そのインパクトは衝撃と言える。
AMPの「SWAN LAKE」の白鳥の姿で登場し、大きく羽ばたく様に彼は跳ぶ。たったそれだけのワンシーンだが、観客の目にはしっかりと焼き付き、彼の踊りがもっと観たいと思わされる。
既に彼の踊りを見慣れてしまっている私ですら、心の中に沸き上がるものがあった。鍛練している人間の体というものは、こんなに美しいのかと。

 とにかく、この映画を大きなスクリーン、映画館という特別な場所でみて欲しい。
きっと見終わった時、あなたの心にはさわやかな感動と、優しさが残っていることだろう。


★☆★ この映画はこの映画館で上映されました ★☆★

東京/シネスイッチ銀座(2001、1/27〜)

大阪/パラダイスシネマ&梅田ガーデンシネマ(2001、2/10〜)

京都/京都朝日シネマ(2001、2/10〜)

神戸/神戸アサヒシネマ(2001、2/10〜)

 


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