クララがもらったくるみ割り人形は、今や人の大きさになり、クローゼットの中から外に出ようとしていた。変わったのは大きさだけで、彼は未だプラスチックのような材質で出来た頬と髪のまま、洋服も同じジャケットと白いパンツで、ぎこちなく動いて歩き出そうとしている。そんな様子を見てシュガーはパニックに陥り、とにかく逃げなければと部屋を飛び出して行った。

　部屋に残されたクララも怯えているが、ドロス一家の居る部屋に逃げ出すわけにもいかず、部屋でただただ立ち尽くすしかない。
　人形は今やクローゼットから出て、部屋の中を歩いている。そして、寝ていた子供たちも起き出し騒ぎはじめた。怯えて縮こまる子供たち。その中を動き回るくるみ割り人形。彼はまず右の壁に手をかけ、壁を壊しにかかる。あっという間にメリメリと壁は割れ、大きな亀裂が入る。次に左の壁を壊し、最後には正面の壁をも割ってしまう。今や、全ての壁が横に大きく入った亀裂で二つに分割されてしまった。そんな中、ドロス一家が子供たちの部屋に勢い良く飛び込んできた。
　フリッツは例のおもちゃのピストルをクローゼットに向かって構えている。そして、閉まったクローゼットを勢い良く開けると、そこには誰にも居ない。何処に行った？と探しはじめるドロス一家に、孤児たちの反撃が始まった。

　人形に怯えていた子供たちは、怯えるドロス一家を見て力を得たのか、くるみが見方をしてくれると思ったのか、あっという間に一家にとびかかり、ベッドの上に押さえ込んだ。
　フリッツは両手両足に紐をかけられ、キャスター付きベッドに括りつけられ、ベッドとともに、何処かに追いやられてしまった。シュガーも女の子たちの反撃にあい、ベッドの上でシュガーが持っていたお人形でたたかれ、体を引っ張られ、動きを押さえ込まれてやはりベッドごと追いやられてしまう。
　ドロス夫人も手足をばたつかせて抵抗したが、多勢に無勢でやはりベッドごと部屋から外に出されてしまった。そして、Dr.ドロス。子供たちの彼への憎しみが今や、一気に噴き出していた。

　おもちゃの剣をふりかざし、子供たちはドロスとの対決に挑んだ。数人が彼の上にのしかかり、体の動きを封じ込めるとベッドの端から首を出させた。すると、一人がバケツを持って首の下にやってきた。もう一人がおもちゃの剣で、彼の首を落とそうとしはじめる。バケツでそれを受けようとするもの、しっかりと押さえ込むもの、そして首を切ろうとする者。
　すっかり処刑モードに入り、彼が降参するかに見えた時、ドロスが「これはおもちゃだっ！！やられてたまるか！」と思い出したかのように彼等を払いのけた。一気に劣勢に追い込まれる子供たち！その時、どこかに姿を消していたくるみ割り人形が現れ、ドロスの居るベッドに近付いた。そして、ベッドごと彼を部屋の外に出し始める。それを囲むように子供たちも部屋の外へ。そして、今までの騒ぎが嘘のように静まりかえり、クララだけが部屋に取り残された。

　亀裂が入った壁に囲まれた部屋で、一人クララが取り残され、ただただ立ち尽くしていると、くるみ割り人形が戻って来る。その様子を見守るクララの前で彼はマスクを脱ぎ捨て、上着を脱ぎ捨てる。マスクの下にから出てきた顔はショートカットの男性。そして、上着を脱ぎ捨てた彼は今、白いロングパンツと白のサスペンダーだけを身にまとっている。上半身は素肌に白のサスペンダーだけで、たくましい上腕部が目立っている。そして、彼は踊り始めた。

　すると、どこからともなく、彼と同じく素肌にサスペンダーと白のロングパンツという姿の男性が次々に登場。全員でボディービルダーのようなポーズを取り、クララに自分達の筋肉を紹介してから、おもむろに亀裂の入った正面の壁に向かった。壁の外には、寒々とした木々の黒い影が見えている。その壁に彼等は横一列に並び、壁の割れ目に手をかけ、一気に引っ張りあげた。すると、みるみるうちに壁がシャッターのように持ち上がり、あっという間に暗がりだった部屋が光に満ちた世界へと変わったのだった。

　すると、あっという間にかわいらしい白の帽子、白のシャツに白のパンツを身に付けた男の子たちがスケートをしながらクララの前に現れた。気付くと、くるみ割りも白のハイネックのシャツに白のパンツで楽しげにスケートをしている。
　戸惑うクララ。真っ白のワンピースを着た女の子たちもスケートを楽しんでいる。彼女たちのスカートは、ふわふわと広がり、裾にはかわいらしく真っ白な毛皮がついている。毛皮の真っ白な帽子をかぶった子、トップに白い大きなポンポンがついた三角帽をかぶった子など、皆お洒落な帽子をかぶって実に楽しげに滑っている。

　その中、一際目をひく女の子が居る。ピンクの美しいワンピースを着たプリンセス・シュガー。彼女の襟裳と袖口は白い毛皮で縁取られ、頭にはキラキラと輝くティアラがのせられている。ドレスには、全身ラメがちりばめられ、キラキラ、キラキラと輝き、まさしくプリンセスという言葉がふさわしい。
　そんな彼女はあっという間にくるみ割りに目をとめた。にこやかに楽しげにスケートをしながら、あっという間にプリンセスはある計画を思いついた。

　皆でスケートを楽しむ子供たち。そこに、大きな大きな雪だるまを５個ぐらいあわせたような雪玉が空から降ってきてくるみ割りを直撃！フリッツそっくりなプリンス・ボンボンの投げた雪玉は見事にヒット。倒れ込むくるみに、計画通り事が進んで内心喜んでいるプリンセス・シュガーが「大丈夫？」と心配を装いくるみに駆け寄った。彼女の作戦は見事成功。くるみはプリンセスが気になりはじめる。

　このスケートの出来る氷の湖は「Frozen Lake」。ドロス夫妻そっくりな王と王妃が治める国。その国で皆は楽しげに遊んでる。

　そして、再びスケートが始まった。白い美しい衣装に身を包んだ女の子達とかわいらしい男の子がペアーを組み楽しげに滑り出す。そして、王子らしくお金のかかっていそうな白いジャケットにベスト、白い帽子に白い毛皮のポンポンをつけ、あごの下で紐をくくり帽子を固定しているという子供っぽいスタイルのプリンス・ボンボンとプリンセス・シュガー、くるみとクララの２組のペアーがそれに加わった。風を受け、女の子達のスカートが美しくはためいている。でもクララは一人白いネグリジェのまま。ノースリーブのただの白いワンピースで、長そでに毛皮の飾りのついた女の子たちと比べると、実に寒そうだ。幸せそうにスケートを楽しむ子供たち。その時、キラキラときらめく雪がサーッと皆に降ってきた。雪は光を受け、キラキラ、キラキラと夢のように輝いている。

　そして、クララは一人離れて大きな白い枕に身を横たえ、たった一人で諦めたように眠りについた。