AMP " SWAN LAKE " in Broadway Review vol.2


<ACT2>

 休憩の後続く第二幕、舞踏会シーンのオープニングはビデオ版とほぼ同じ。変わっているのは女性達の衣装で、大幅な変更があったのは王子のガールフレンドの衣装とスペインの王女である。
 ガールフレンドは肩のあたりが落ち着いた黄色で、下にいくにつれて黒くなるぼかしの美しいドレスにジュエリーというもので、以前より少し華やか。スペインの王女は髪飾りが髪に斜めに刺さっているいるような扇になっており、以前よりすっきりした感じの黒いドレスになっている。
  そして、王妃は落ち着いた青紫色のドレス変わっており、同じ色の肘上までの手袋をはめている。胸元には飾りがふんだんに付けられており、ビデオでは剥き出しの肩は今回肌色の目立たない布がつかわれていて、そこにスパンコールがちらされている。
 王妃、王子、報道官、そして各国の王女とエスコートたちのダンスは、以前よりコミカルさを増しており、ビデオ版を見慣れている者にとっては少しやりすぎの感がある。これもまた、アメリカ用に変えられたと思われる。会場は素直に笑いに包まれていた。

 そしてファンファーレの後、遂に黒鳥がバルコニーから登場。うっすらと無精髭をはやしたメイクをしているアダムがふてぶてしく入ってくる。
 他の人とにこやかに話していた王子と黒鳥がばったり出会い、王子の表情が一変し、黒鳥がにらんだ途端会場から笑いが起こった。アメリカ人にはおかしい場面なのだろうかと疑問を感じた。
 黒鳥はあっと言う間に王妃の手を取り、手の甲から肩までを派手に舐めあげた。これもまた、わかりやすく派手なリアクションになっている。ボールルームに居た全員が見守る中、アダムの黒鳥は有無を言わせず大胆にハンガリーの王女のテーブルに着き、グラスに入ったスコッチか何かを立て続けに2杯飲み干す。
 最後の一つに手を出した所で王女が取り上げ、派手に口の回りを一舐めして飲み干し、グラスをテーブルに打ち付ける。ここでもまた大きな笑いが起こる。

 ハンガリーの王女とのデュエットが始り、王女は派手に黒鳥のお尻にパシンと音を立ててつかむように手を置く。そこでも笑いが起こり、ぐっと引き寄せられて黒鳥に迫られ、ビデオ版では王女の胸に口づけしようとして鞭で遮られる黒鳥の唇が、王女と顔を見あわせた時点で止まり、王女が自分の胸を見て黒鳥を見、黒鳥も相手が示した所を見て顔を見あわせるという形を取る。ここでもまた笑いが起こる。
 黒鳥の登場シーン全体に笑いが増えた分、大人の駆け引きとスマートさが減退し、私には一抹の寂しさが感じられた。

 しかしその後の展開はほぼビデオ版と同じで、アダムは美しく3回転を決め、息切れする事無く王妃のテーブルに飛び乗り見事にこのシーンを締めくくる。やはりこのシーンは華やかだ。

 そして、喝采の中スペインの踊りが始る。男性群舞が赤いボレロを着て、「オーレッ!」と掛け声をかける以外、これもビデオ版とほぼ同じ。その間黒鳥は王女の間を渡り歩き、イタリアの王女のテーブルへ辿り着く。

 おなじみのナポリの踊りが始ると、黒鳥は王女の足に口づけしながら両足の靴を脱がす。このシーンの色っぽさは相変わらず。ここまでは全く同じだが、テーブルにのぼった王女に下りろというエスコートのジェスチャーがちがう。
かなりのオーバーアクションになっている。必死に下りろと床を指さし地団駄を踏むエスコートの頭に、王女は自分のストゥールをばさっとかける。ここでまた会場は笑いに包まれる。
   その後はビデオ版通りのダンスが展開されるが、その間黒鳥は報道官の居るテーブルに腰掛け、煙草に火をつける。そして、曲の最後には相変わらず浮気な王女に腹をたてているエスコートに近寄り、その顔に煙草の煙を吹きかける。そして吹きかけられた方は怒る事なくしっぽを巻くように去っていく。
 以前より悪のイメージを出そうという演出だろうか。さらりとクールな黒鳥の方が私はどちらかというと好みなのだが、分かりやすい演出という事なら仕方ない。

 そして、黒鳥は煙草を王妃に手渡し王女達と王子、黒鳥、エスコート達のダンスが始る。ここも変更はなく、王子と黒鳥は相手の動きを常に感じとりながら違う相手とダンスを続ける。
 この一触即発の緊張感のあるシーンは流れるように、王妃と黒鳥のダンスシーンになる。相変わらず少女のようにはしゃぐ王妃。そしてそれを追う黒鳥。ビデオ版にある王妃の胸を黒鳥がぎゅっとつかむという振りは無くなっていた。
 ぎゅっと抱きしめる程度の接触に変わったのだが、ビデオ版では王妃と黒鳥を見て席についたまま、王子が怒りをぐっとこらえるようにのけ反るというシーンだったのが、怒りの余り立ち上がるように変わっていた。更に、王妃は舞台に右の壁に背をつけて立ち、黒鳥が彼女の両サイドの壁に両手のひらをついて身動きが取れないようにして迫るというシーンが加えられていた。

 くるくると二人は回りながら舞台右から左へ移動。そして王子が王妃に入れ替わるシーンで、会場からどっと笑いが起こった。ビデオでも良く聞くと数人の笑いが聞こえるのだが、ブロードウェイでは大笑いである。まあ、そのタイミングの良さがおかしいといえば言えるのだが、王子の心情が痛いほど分かる私としては、ここまで笑えるシーンだろうかと疑問が残る。

 そして、二人の緊張感あふれるダンスが始った。誘って、王子の警戒心を和らげては突き放して、また誘う。そんな黒鳥に翻弄され続ける王子。危険な香りのするこのダンスをアダム・クーパーとスコット・アンブラーは独特の甘さを持って踊りきる。黒鳥が王子の頬に口付けるように見える、恐らく新たに加えたシーンでは、こちらがぞくっとしてしまうほどだ。

 そして、王子はこのシーン以降一気に不幸になっていく。黒鳥は白鳥を思いださせるように額から鼻にかけて黒い墨を塗り、白鳥の羽ばたきをまねた手の動きをする。
以前より白鳥を暗示させる振りになっており、アダムは一つ一つのポーズを美しくぴたりと決める。王子は出席者に囲まれ笑われ、徐々に精神に異常をきたし、どこへともなく消えていく。

 王妃と王女のダンスが始ると同時に黒鳥は舞台の左に横たわり、王妃の踊りを見守る。このダンスの途中でビデオ版にはないが、王妃が黒鳥に近寄り黒鳥も王妃のドレスに触れるというシーンが挿入されている。
 続いて男性陣と女性陣がかけあうテンポの早いナンバーが始まった。以前より手拍子が複雑になり、映像では映っていないのでどうだったのか分からないが、報道官が忙しく手や膝を叩いて音を出している。王妃と黒鳥の振り付けはそのままで、各テーブルを飛び回り、最後に黒鳥が王妃の足元に跪き、ドレスの裾に抱きつくというスタイルで締めくくられる。

 会場の大きな拍手の続く中、悲壮な面持ちの王子が登場。先ほどまでの皇太子ぜんとした立ち居振る舞い、顔の表情はなく、前髪は乱れ、取りつかれたような顔をしている。スコット・アンブラーの役者としての姿を見せられるシーンである。
 王妃に噛みつき、黒鳥に「何故だ」と問い掛け、ピストルを発砲しようとする。そして、元ガールフレンドは王子を庇って報道官の銃弾に倒れる。この王子を庇うシーンからも感じられるが、ガールフレンドはビデオ版よりもブロードウェイ版の方が、より王子の事を本気で好きになっているように感じられた。

 あっと言う間に連れ去られる王子と計画通りだと喜びあう報道官と黒鳥。このシーンは全く変更なく舞台はあっと言う間に次の場面へと移っていった・・・


☆上の写真は、AMP「SWAN LAKE」公演中のニールサイモン劇場です(著者撮影)☆


AMP " SWAN LAKE " in Broadwayインデックスに戻る

HOMEに戻る
AMP Newsを見る