AMP " SWAN LAKE " in Broadway Review vol.3


<ACT2>

 白い壁にドアが一つと、左上に鉄格子のついた窓が一つある、隔離室のような部屋が舞台に現れた。舞台前面に壁一つ置かれているだけなのだが、十分その異様さは伝わってくる。
ドアが開き、パジャマ姿の王子が現れる。先ほどまで舞踏会用の礼服を着ていたのに、あっというまの早変わりである。そして、白い白衣にも見えるローブを着た王妃と白衣を着た報道官が登場。王妃のクローン人間のような看護婦もぞろぞろと入ってくる。
 このシーンは白い壁の前で行なわれる事により、以前よりも王子の悪夢的な印象を強めたように思える。精神安定剤だか何だか分からない薬を飲まされ、報道官に手術じみた事をされた後(一説にはロボトミー手術とも言う)、白い壁が消えさり王子は子供の頃から使っているベッドに横たえられる。

 舞台の上には、ベッドで眠らされている王子しか居ない。そこに、ベッドの下から3羽の白鳥が登場。彼等は最初の登場の時より凶暴さを増した感じがする。
このシーンはビデオと同じで、彼らの退場と同時に王子が悪夢から目を覚ます。切迫感のある音楽になり、王子はベッドから下り、ベッドの下をのぞき込む。
ビデオではあいまいであるが、ブロードウェイ版ではしっかりとベッドの下をのぞき込み、白鳥がいないか確認する。この事により、今のシーンが王子の悪夢だったのだという事がはっきりさせられている。

 暗い部屋で一人、闇の中で怯える王子。恐怖に怯え、黒鳥の態度に傷つき、王子なのだからちゃんとしなければと姿勢を正し、また恐怖の襲われる。その様子をスコット・アンブラーはこちらの胸が痛くなるほど、見事に表現する。
 精神的にパニックに陥りながらも、未だに必死に王子を演じようとする彼の心をここまで見せられると、白鳥だけでなく私までもが守ってあげたくなってしまう。

 その時王子のベッドにうずたかく積まれた枕の下から、アダム演じる白鳥の右手が出てくる。白鳥が助けに来たのだ。追い詰められ、誰も味方の居ない王子を助けに来た白鳥。
 そう、ここは感動のシーンなのだが、何故か会場のアメリカ人からは笑いが起こる。何故ここがおかしいと感じるのか、再び疑問の渦に突き落とされる。

 白鳥は必死にベッドから這い出し、漸く全身が現れ、王子に背中を向けて羽を広げる。彼の体には、つつかれて出血した痕がある。既に仲間の白鳥にかなり痛め付けられており、彼の体はぼろぼろになっているのだ。それでも彼は命をかけて王子の元に来たのだった。この、胸と背中のあちこちに傷があるというのは、新しい演出である。

 床の上で一人恐怖に震えている王子に向かって、白鳥はベッドの上で優雅に優しく翼を動かし、こちらにおいでと招き寄せる。そして王子は漸く心の安らぎを覚え、彼の足にしがみつき、そんな彼の背中に白鳥が優しく触れる。
 そこに間髪を入れず白鳥たちが登場。あっという間にベッドの上の王子と白鳥を取り囲む。白鳥は必死に守ろうとするが、より暴力的になった白鳥たちはいとも簡単に王子を彼から引き離してしまう。

 容赦なくおそいかかる白鳥につつかれる王子。そして白鳥はベッドの上から王子を助けだそうとしている。王子を攻撃する白鳥たちの動きは激しさを増し、ついに王子の姿が見えないほど白鳥たちが群れをなして取り囲んだ。その時、白鳥が力を振り絞ってベッドの上で大きく一度翼を広げる。
 この時のアダムの白鳥の両の翼は力強さと包容力に満ちている。そして、両手を広げた彼の姿は、目に焼き付くような存在感である。
 白鳥は急いで王子にかけより、ぐったりとした王子の背中に頬をすりよせる。ビデオでは数回頬擦りをし、反応がないという事になるのだが、ブロードウェイ版では、王子の脇に頭を突っ込むようにして、腕を持ち上げようとする。ところが王子の腕は持ち上げても、持ち上げても力なく下に落ちてしまうのだ。
白鳥は悲しみに襲われ、慟哭する。

 その時王子の意識が戻り、白鳥の方に向けて動き始める。そんな彼に白鳥は急いで駆け寄り、王子は白鳥の首に全身でしがみつく。公園のシーンと同じしがみつき方だが、その時には決して王子の体を包み込まなかった白鳥の翼が、今度はしっかりと王子の背中にまわされる。胸がきゅんとなるシーンだ。

 この二人の絆に胸を打たれているのもつかの間。再び白鳥たちが現れ二人を引き裂こうと動きはじめる。
今度はアダム演じる白鳥が攻撃対象になり、彼はベッドに追い込まれる。それでも必死に王子を守ろうとし、虫の息になりながらも、王子に手を差し伸べ敵である白鳥たちの群れに倒れ込む。
 このお互いを命懸けで求めあう白鳥と王子の姿に思わず目頭があつくなってくる。そして遂に白鳥の命が絶たれた。
白鳥の死と王子の孤独の二つの悲しみが観客の胸に迫ってくる。

 客席に振り向き、悲しみを露にしたスコット演じる王子の表情には絶望があり、子供が支えをなくしてしまったという儚さがあり、観客は心の底からかわいそうだと思わされる。
 絶望の中、再びベッドに戻る王子の背中にはもう生きる力が残っていない。そして、白鳥が消えたベッドに辿り着くと同時に、彼の命も終わってしまうのである。その展開、その動作に既存のものではなく、あつらえたようにぴったりとした音楽が鳴り響き、我々の心を一層揺さぶるのである。

 王子が彼のかわいそうな人生を終えると同時に王妃が部屋に現れ、初めて自分の息子を抱きしめ号泣する。そしてベッドの後ろの窓には幼少の王子を抱きかかえた白鳥が現れる。何度見ても良く出来たラストである。

 会場中から拍手が鳴り響き、あっという間に舞台はカーテンコールへ。まずは王子と白鳥が喝采を浴びる。次に全ての出演者がグループごとに登場。
 アメリカではさっさと観客が帰ると言われているが、席を立つ人は数える程で、会場は歓声と拍手の渦となっている。私が3回見たうちの初日、アダムとスコットの日には、最初から一階席はオールスタンディングオーベイションだった。
 コールドのカーテンコールにつづき、プリンシパルたちの登場。一層拍手が大きくなる。報道官、王子のガールフレンドに続き、王妃役のマーガレット・ポーター、王子役のスコット・アンブラーが登場。そして最後にアダム・クーパーが現れた。
劇場は割れんばかりの拍手がわき起こり、ブラボーの嵐。
 この観客の反応がこの夜の舞台の全てを物語っていた。


☆上の写真は、AMP「SWAN LAKE」公演中のニールサイモン劇場です(著者撮影)☆


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