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奈良の酒蔵を訪ねて
「梅乃宿」梅乃宿酒造「山鶴」中本酒造店「春鹿」今西清兵衛商店
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「山鶴」中本酒造店
山鶴 代表:中本彰彦さん(左)
杜氏:西坂信一さん(右)

山鶴 生駒山の麓に江戸時代享保年間から続く酒蔵中本酒造店があります。周辺は豊かな自然と足回りの良さから住宅地として開発されていますが、旧道を少し入ると、どっしりとした大和棟の母家がまず目に入ります。歴史を刻んだ酒蔵だというのが実感。式台玄関からお座敷へと通されると床の間に掛けられている軸は「一白 二蔵 三杜氏」の堂々とした文字です。明治から昭和にかけて活躍した洋画家であり書家でもあった中村不折の書だとか。
代表の中本彰彦さんによると「白というのは良い米を白く磨くことです。米粒のまわりにある脂肪や雑味成分は酒造りに不要なんです。これを取り除くこと、白く磨くことから酒造りははじまります。良い米を磨き、蔵を整えて杜氏に腕をふるってもらうことが大切だというこでしょう。偉大な文人だった不折が我が家を訪れた時に揮毫されたようです」

山鶴 以後、これをモットーに酒造りに心を傾けてきたそうです。でも、昭和40年代からの日本酒不振となり中本さんも激しい時代の波がうち寄せたとか。

 「一時は酒造りを止めようかとまで思いました。そんな時にいろんな人と出会いました。中でも“幻の日本酒を飲む会”を主宰していらした篠田次郎さんとの出会いが今の山鶴を造りました。当時としては大冒険だったのですが、昭和62年に吟醸酒だけを造る蔵を建てたんです。周囲は大反対。私は近くの住宅へご用聞きに回っていて、一般家庭1500軒ほどの得意先がありました。それに親しくしている料理屋があって、この方々に飲んでいただけるというのだけが見通しでした。良い酒を造って自分で売るつもりでした」

山鶴 中本さんはさまざまな苦労話を淡々として語られます。蔵も麹室も近代的にして、温度や湿度をコントロール、人間の勘や経験と共に合理的な知恵も加えて酒造りが大きな成果をあげてきたのです。

山鶴 「きりっとした爽快な酒にするにはツキハゼ、つまり蒸し米の表面を麹菌が覆うのではなく、米の真ん中に食い込んでいくようにしなければいけません。そのためには湿度を抑える必要があるわけです。名醸蔵が長い間かけてやってきたことを短時間でやるのですから、人一倍の工夫と熱意がいりますね。うちでは名杜氏で知られる西坂信一さんを中心に心を合わせての酒造り」

山鶴 中本さんは、大吟醸や吟醸にももちろんこだわっていますが、それだけではなく、普段の暮らしの中で楽しめる酒造りにも心を砕いています。「日本酒は米」というこだわりで産地を選び、米を選びます。添加物を加えない本物の酒造りです。消費者への眼差しから生まれる銘酒のかずかずは、多くのファンを集め、ホームページでは酒造りの工程や仕込みの規模、酒米の産地や銘柄、精米の歩合といった内部情報まで公開。しっかりとした手応えと自信があればこそなのでしょう。
その一環として、朝に絞ったお酒をその日のうちに届けるという企画を近鉄デパートの協力で実施しています。酒蔵で絞りたてを飲むという憧れが家庭にいながら叶う、願ったりの企画です。ぜひためしてみたいものですね。


[中本酒造店]
奈良県生駒市上町1067
TEL:073-78-0005
ホームページ:http://www1.kcn.ne.jp/~yozaemon/

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