C91
暴走する最高裁―日本国憲法の効力は日本国外にも及ぶのか(その2) −民主主義否定の最高裁判事達、彼らはこの事案の当事者・利害関係者−

 5月25日の読売新聞は、「在外邦人の国民審査、投票認めないのは『違憲』…総務相『可能にする方策検討』」と言う見出しで、次のように報じていました。
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在外邦人の国民審査、投票認めないのは「違憲」…総務相「可能にする方策検討」
2022/05/25 23:11 読売

 海外に住む日本人が最高裁裁判官の国民審査に投票できないのは憲法に反するとして、在外邦人ら5人が国に1人当たり1万円の損害賠償などを求めた訴訟の上告審で、最高裁大法廷(裁判長・大谷直人長官)は25日、投票を認めていない国民審査法は
「違憲」とする初の判決を言い渡した。国会が在外審査制度を創設する立法措置を怠ったとして、1人当たり5000円の賠償も国に命じた。


最高裁の「違憲」判決を受け、笑顔を見せる原告ら(25日午後、東京都千代田区で)
=横山就平撮影


 裁判官
15人全員一致の意見。最高裁が法律を違憲とするのは11件目で、国会の立法不作為について賠償責任を認めたのは2件目となる。政府は在外審査の実施に必要な法改正を行う方針。

 国民審査法は在外邦人の投票を認める規定がない。原告5人は2017年10月の審査時に海外に住んでいて、投票できなかった。



 判決はまず、国民審査権について「主権者である国民の権利として、選挙権と同じように平等に行使することが憲法で保障されている」と指摘。在外邦人の投票を制限することは、やむを得ない事情がなければ原則、許されないと述べた。

 その上で、「裁判官の氏名を印刷した投票用紙を海外に送付し、開票に間に合わせることは困難だ」とする国側の主張について、現状とは別の投票方式を採ることもできることから、「やむを得ない事情があるとは到底言えない」と指摘。在外邦人が投票できないことは、国民に
公務員の選定罷免ひめん をする権利を保障した憲法15条や、国民審査制度を定めた憲法79条に違反すると判断した。

 在外邦人が
次回の国民審査で投票できないことは「違法」とも言及した。

 さらに、かつては在外邦人に認められていなかった選挙区での国政選挙の投票が、最高裁大法廷の
05年の違憲判決を機に解禁された経緯を踏まえ、国には長期にわたって在外審査の立法措置を怠った責任があるとして、賠償も命じた。

 木原誠二官房副長官は25日の記者会見で「(判決を)厳粛に受け止めたい。今後、判決の内容を十分精査する必要があるが、立法的な手当てはいずれにしても必要だ」と述べた。制度を所管する金子総務相は同日、「判決内容を踏まえ、国民審査の在外投票を可能とするための方策について早急に検討する」との談話を出した。

 外務省によると、在外邦人は昨年10月時点で約
134万人で、有権者は約100万人に上る。このうち、在外選挙人名簿に登録され、国政選挙に投票できる人は約10万人いる。

◆国民審査  最高裁の裁判官に対し、任命後の最初の衆院選に合わせて、その職にふさわしい人物かどうかを国民が審査する制度。有権者は辞めさせるべきだと考える裁判官名に「×」を記し、これが有効投票の半数を超えた場合、罷免される。
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 この問題については、判決も触れているように、2005年の海外に居住する日本人の国政選挙権を巡る裁判で、今回と同様に
外国居住者の選挙権が認められ、司法が法律の改正を命じたことがありました。

 その時に私は下記の「C45 暴走する最高裁―日本国憲法の効力は日本国外にも及ぶのか」を書き、最高裁判所を批判しました。
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C45
暴走する最高裁―日本国憲法の効力は日本国外にも及ぶのか

 9月14日の「Sankei Web」は、「在外選挙権制限は違憲 次回での権利を確認 最高裁」という見出しで次のように報じていました。
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 海外在住の日本人が衆院選の小選挙区参院選の選挙区で投票できないのは選挙権を保障した
憲法に違反するとして、在外邦人ら13人が国を相手に公選法の規定の違法確認と慰謝料などを求めた訴訟の上告審判決が14日、最高裁大法廷(裁判長・町田顕長官)で言い渡された。・・・

≪在外選挙権最高裁判決骨子≫
 1. 改正前の公選法が、
在外選挙を全く認めていなかったのは違憲
 2. 改正後の公選法が、当分の間、在外選挙を比例代表に限っているのは違憲
 3. 判決後、最初の衆院総選挙、参院通常選挙において、原告らが選挙区選挙に
投票できることを確認する
 4. 1996年までに国会が
立法措置をとらなかったことは、国家賠償法上の違法行為であり、国は精神的苦痛に
    対する慰謝料支払い義務を負う。慰謝料は1人
5000円が相当
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日本国憲法の効力日本国外にも及ぶのでしょうか。国外に住む日本人にも及ぶのでしょうか。外国に住む日本人は外国政府に納税し、現地の法律の下に生活しています。中国に住んでいる日本人に言論の自由はありません。外国に住んでいる日本人に日本国の法令が及んでいるとは考えられません。憲法も一法律であると考えれば、憲法の効力は外国に住む日本人には及んでいないと考えるべきだと思います。
 そもそもこの点に関して憲法に明確な規定はありません。違憲と断じた最高裁の判断には根拠がないと思います。明確な違憲の根拠がない以上、
三権分立の下では立法府の判断は尊重されなければなりません。

 憲法は第81条で「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が
憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」とし、憲法に反する法律に無効を宣言する権限を認めていますが、憲法が認めているのはそこまでであって、裁判所に立法府に対して命令する権限を認めている訳ではありません。そのような権限を認めれば、三権分立は成り立ちません。

 このような観点から考えると、今回、裁判所が立法府の
「不作為」を「国家賠償法上の違法行為」と断罪したことは、立法府に「作為(立法)」を命じるものであり、違憲立法審査権の範囲を逸脱した暴挙であると思います。裁判所が憲法を拡大解釈することは許されません。
 裁判所がどうしても言いたければ、現在の公職選挙法は憲法違反であり、
無効であると言うべきです。さらに選挙も無効であると言うべきです。それを言うだけの勇気がないのであれば、原告の訴えを退ける他はありません。

平成17年9月18日    ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ
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 前回と今回の
問題点の構図はほとんど同じですが、以下の点に前回とは違う問題点があります。

1.国政選挙は国民の関心も高く、実際に激しく選挙選が戦われ、投票の結果は僅差で勝敗が決することもあり、例え全体から見れば僅かの有権者数であっても、無視できません。しかるに最高裁判事の信任投票は、実施されて以来罷免の例はなく、信任投票の実施に際して、可否の判断に必要な情報がほとんど有権者に伝えられず、全く形骸化しており、国民の関心も非常に薄いのが実情です。
 それにも拘わらず今回
僅か5人が少額の提訴に及んだのは、他意あるもの(パフォーマンス)に過ぎず(彼らの表情からもその辺が窺えます)、これに大騒ぎで臨んだ裁判所も、マスコミも他意あるものと考えられます。 

2.この件では彼ら最高裁の判事達は、今回の争点である国民審査の対象者そのもの(利害関係者)であり、訴訟の利害関係者(事案の当事者)が判事として法廷に立つことは適切ではありません。
 この裁判で原告の主張を認めるか認めないかは、国民審査における判事に対する
信任投票に影響を与えます。

3.前回の国政選挙の時には気付かなかった点ですが、外国は基本的に日本の法令が及ばず、現地の法令が適用されますので公職選挙法の適用は無いものと思います。
 そうすると例えば現地で
事前運動・買収など、日本国内では禁じられている行為が行われても、歯止めが掛けられないケースがあり得ると思います。それらを考えても、日本国外で公職選挙等を行うことには選挙・投票の公正・平等の面で問題があると思います。

 
敗戦直後で、世界では法治が行き届いていなかった当時に、一夜漬けで作られた憲法が、日本の国政選挙(国民審査)の投票を、海外で行うことを想定していたとは到底考えられません。
 違憲判決には無理がありすぎます。

 私はここで、5月21日の「最高裁長官 戸倉氏に決定」と言う見出しの、次の様な読売新聞の記事を思い出しました。
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最高裁長官 戸倉氏に決定
2022/05/21 05:00 読売

 政府は20日の閣議で、6月22日で定年退官する大谷直人・
最高裁長官(69)の後任の第20代長官として、裁判官出身の戸倉三郎・最高裁判事(67)を指名することを決めた。戸倉氏の任期は24年8月まで。

 これに伴い、閣議では、
最高裁判事に東京高裁長官の今崎幸彦氏(64)を起用する人事も決定した。いずれも発令は6月23日以降の予定。さらに、7月2日に定年退官する菅野博之・最高裁判事(69)の後任に、大阪高裁長官の尾島明氏(63)を起用する人事も決まった。発令は7月3日以降となっている。
     ◇
 戸倉三郎氏(とくら・さぶろう)80年一橋大法。最高裁事務総長、東京高裁長官。山口県出身。67歳。

 今崎幸彦氏(いまさき・ゆきひこ)81年京大法。水戸地裁所長、最高裁事務総長。兵庫県出身。64歳。

 尾島明氏(おじま・あきら)83年東大法。東京高裁部総括判事、最高裁首席調査官。神奈川県出身。63歳。
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 ここでは
最終学歴と、直近の裁判所内の簡単な異動履歴年齢が書かれているだけで、詳しい情報は何もありません。こんなことで新聞社の役割を果たしているとは到底言えません。
 仮にこの人事に対して、意見を言おうとしても何も言えません。最高裁判事の国民審査で
白紙のままで投票箱に入れる人が大半で、“×”を付ける人が少なく形骸化して、無意味となっているのはここに原因があります。

 更に、
「C75 最高裁判事に対する国民審査 誠実さに欠け、有権者を馬鹿にしている最高裁の判事達  −質問に対する回答拒否は国民審査制度への抵抗−」で書きましたが、国民審査に当たっては、マスコミが対象となる判事に色々質問をしていますが、判事達の多くは「回答を控え」ています。これでは有権者は判断する材料がありません。

 最高裁の判事達が、本当に「国民審査」の重要性を理解した上で、立法・行政に改革を促しているなら、例え質問に対してストレートに回答することが無理であろうとも、する気があればいくらでも工夫をして
有権者の疑問に答えようとするはずであり、するべきです。このような非協力はあり得ないと思います。

 形式的で大勢に影響のない在外邦人の問題よりも、遙かに重要な問題が、見過ごされ(隠蔽され)ています。これはマスコミだけの問題ではなく、
司法自身の問題と言うべきです。

 彼らのしていることは、今回の在外有権者の判決のように、表面だけ取り繕って国民を欺き、この裁判で
国民の最高裁に対する好感度を上げて無事に国民審査を乗り切ろうというだけです。

令和4年5月28日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   
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