F119
被爆者援護法の廃止を −既に役割は終わった(その2) “黒い雨”裁判の闇−

 7月26日、27日の両日に渡り、NHKのテレビニュースは、「『黒い雨』裁判 上告断念求める署名 原告が市と県に提出 広島」、「『黒い雨』裁判 上告せず 政府が決定
被爆者健康手帳を交付へ」、「『黒い雨』裁判 政府上告せず 被爆者認定のための指針見直しへ」と言うタイトルで、次の3つのニュースを報じていました。
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記事1


「黒い雨」裁判 上告断念求める署名 原告が市と県に提出 広島
2021年7月26日 15時29分 NHK

 広島に原爆が投下された直後に放射性物質を含むいわゆる「黒い雨」を浴びて
健康被害を受けたと住民などが訴えた裁判で、広島高等裁判所が原告全員を被爆者と認めたことを受けて、原告たちが上告をしないよう求める8400人余りの署名を広島市と広島県に提出しました。


 広島市や周辺自治体に住む住民やその遺族合わせて84人が昭和20年、原爆が投下された直後に降ったいわゆる
「黒い雨」を浴び健康被害を受けたと訴えた裁判で、広島高等裁判所は今月14日、1審に続いて原告の住民全員を法律で定める被爆者と認め、広島市と広島県に対し被爆者健康手帳を交付するよう命じました。

 28日の上告期限を前に26日、高野正明原告団長など4人が広島市役所と広島県庁を訪れ、インターネットなどで集めた上告しないよう求める
8440人の署名を提出しました。

 署名を受け取った広島市原爆被害対策部の宍戸千穂援護課長は、「黒い雨を浴びたすべての方が
救済されるよう国に働きかけていきたい」と答えていました。

 高野原告団長は、「たくさんの署名に心から感謝している。上告せず、判決どおりの
救済を実行してほしい」と話していました。
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記事2


「黒い雨」裁判 上告せず 政府が決定 被爆者健康手帳を交付へ
2021年7月26日 18時43分 NHK

 広島に原爆が投下された直後に放射性物質を含むいわゆる「黒い雨」を浴びて
健康被害を受けたと住民などが訴えた裁判で、政府は、上告しないことを決め、原告に被爆者健康手帳を交付することになりました。

 広島に原爆が投下された直後に
放射性物質を含むいわゆる「黒い雨」を浴びて健康被害を受けたと住民などが訴えた裁判で、2審の広島高等裁判所は、今月14日、原告全員を法律で定める被爆者と認める判決を出しました。

 28日の上告期限を前に、菅総理大臣は、26日午後、総理大臣官邸で、田村厚生労働大臣や上川法務大臣と対応を協議しました。

 このあと菅総理大臣は記者団に対し「判決について、私自身、熟慮した結果、84名の原告の皆さんについては、被爆者援護法に基づいて、
その理念に立ち返り、救済すべきであると考えた。そういう考え方のもと上告しないこととした」と述べ、上告しないことを明らかにしました。

 その上で「原告の皆さんには、直ちに
被爆者手帳を交付させていただきたい。同じような事情の方々についても、救済すべくこれから検討をしたい」と述べ、原告に被爆者健康手帳を交付する考えを示しました。

 また、「多くの方が高齢者で、病気をお持ちの方もいらっしゃるので、速やかに
救済させていただくべきだという考え方に至った」と述べました。

 このあと菅総理大臣は、総理大臣官邸で、広島市の松井市長、広島県の湯崎知事と面会し、上告しないことを伝え「判決は、政府として
問題点はあるが、談話なりで整理したい。田村大臣と上川大臣に対応を指示した。国、県、市が連携して救済に向けて取り組むため、協力をお願いしたい」と述べました。

 これに対し松井市長は「ご
英断心の底から感謝を申し上げたい。被爆から76年がたつが、皆さんの思いをいったんは叶えられるもので、残る課題は、引き続き、国、県、市が一緒になって解決すべく、努力させていただく」と述べました。

 湯崎知事は「被爆者の皆さんの
長年にわたる痛みや不安、苦しみなどに思いをはせていただいた。同様の状況にある皆様についても救済の検討を急ぐということで、心の底から、ありがとうと、ほっとされているのではないかと思う」と述べました。

広島県 湯崎知事 広島市 松井市長「
感謝申し上げたい」
 広島県の湯崎知事は、菅総理大臣と面会したあと総理大臣官邸で記者団に対し、「政府としては
難しい判断もあったかもしれないが、今回の判断は被爆者、黒い雨を浴びた方の長年のつらい思いなどに総理から思いを寄せていただいた。痛みを理解していただいた判断で感謝を申し上げたい。われわれもすべての皆さんが救済されるように努力したい」と述べました。

 また、広島市の松井市長は菅総理大臣と面会したあと総理大臣官邸で記者団に対し、「
英断に心から感謝申し上げたい。なかなか乗り越えられなかった行政判断で、総理の総理決断に感無量だ。一刻も早く一緒になって対策を講じていきたい」と述べました。

原告団長の高野正明さん「国の英断に感謝」
 裁判の原告団長の高野正明さん(83)は、「国の
英断感謝しています。原告の私たちだけでなく、黒い雨を浴びたすべての人が救済されて初めて喜べると思うので、実現するまで見守っていく覚悟です」と話していました。

広島県被団協 箕牧智之理事長代行
「この上なくうれしい」
 広島県被団協の箕牧智之理事長代行は、「この上なくうれしい。原告はみんな高齢者なので、1年延びたら、また亡くなる人も出てくる。ただ、黒い雨に遭った人たちはまだまだいると思う。
被爆者健康手帳を速やかに交付するなど政府や自治体は対応を急いでほしい」と話していました。

判決を受けた政府・与党内の動きは
 いわゆる「黒い雨」をめぐる裁判では、去年7月の1審の判決に続き、今月、2審の広島高等裁判所も、原告全員を被爆者と認めました。

 判決について、政府内からは「
『黒い雨』を浴びていなくても空気中の放射性微粒子を吸い込むなどして、内部被ばくによる健康被害を受けた可能性があるという判決は、被爆者の定義を変えるもので、受け入れられない」などとして上告せざるをえないという声が出ていました。

 田村厚生労働大臣は、今月20日の記者会見で「判決は非常に重い」とする一方「判決の内容が、ほかのいろいろな事象に影響することになるなら、なかなか
容認しづらい」と述べていました。

 一方で、広島県選出の与党議員などからは来月6日には
原爆の日も控えており、県民の気持ちを考えて、上告すべきでないという声が出ていました。

 これに対し、被告の広島県と広島市は「
人道的な視点に立って救済方法を考えていくという政治判断が優先されるべきタイミングだ」などとして、田村大臣に、上告せずに裁判を終結することを認めるよう要請していました。

自民 岸田前政調会長「
歓迎評価したい」
 自民党広島県連の会長を務める、岸田前政務調査会長はNHKの取材に対し「政府が上告しない意向を表明したことを歓迎し、評価したい。原爆の投下からまもなく
76年がたち、被爆者の高齢化が進む中、1日も早く、より多くの方救済されるよう、政治が努力していかなければならない」と述べました。

立民 泉政調会長「広い意味での
最大限救済を」
 立憲民主党の泉政務調査会長は、記者団に対し「原告団が早期の解決を求めている中で、上告期限を迎える前に国の方針が示されたことは
本当によかった。原告のほかにも同じ環境にある方々がいるので、広い意味で最大限救済を図ることが、次に国に求められることだ」と述べました。

共産 小池書記局長「上告見送りは当然 幅広い
救済を」
 共産党の小池書記局長は、記者会見で「原告の中にはすでに亡くなっている人もいてこれ以上の時間の引き延ばしは許されず、上告の見送りは当然の措置だ。国が原告のみならず、被爆者支援のための施策を直ちに打ち出し、
幅広い救済を行っていくことを求める」と述べました。

判決の影響の範囲は
 広島市と広島県は被爆者に準じた援護を受けられる「健康診断特例区域」と呼ばれる
援護区域の拡大を国に求めてきました。

 援護区域の範囲は、原爆が投下された直後の昭和20年に当時の気象台の職員が行った
「黒い雨」に関する調査により、激しい雨が降ったとされる「大雨地域」と判定された地域をもとに国が指定しましたが、この区域の外でも「黒い雨」を浴び、健康被害を訴える人たちの救済を求める声が高まりました。

 これを受けて広島市は広島大学の教授などと共同で調査を行い、平成22年には
援護区域のおよそ6倍の範囲「黒い雨」が降ったとする報告書をまとめ、市によりますとこの範囲で当時「黒い雨」を浴びた住民は、去年(R2)8月の時点でおよそ1万3000人いると推定されています。

 また、広島市によりますと、援護区域の中にいたため無料で健康診断を受けられるものの、国が指定したがんなどの
11種類の病気をいずれも発症していないことなどから、被爆者健康手帳の交付を受けていない人は、ことし3月時点で市内だけで115人いるということです。

 2審の判決が確定する見通しとなったことを受けて、こうした人たちも被爆者として
救済される可能性があるということです。

日本被団協 「現行の法律は
原爆被害実相とかけ離れたもの」
 いわゆる「黒い雨」をめぐる裁判で、菅総理大臣が上告しない考えを明らかにしたことを受け、全国の被爆者団体でつくる日本被団協=日本原水爆被害者団体協議会は談話を発表しました。

 談話では、上告しない判断を評価した上で、「黒い雨の被害者が長年、被爆者と認められなかったのは、現行の法律が原爆被害の実相とかけ離れたものであることに起因している。原爆被害者は、多数の死没者、熱線、爆風、放射線の被害者、救援や家族捜しのため街に入った人々など多用だが、現行法では、
距離、時間など一定の条件を満たす人のみを援護の対象と狭く定めている」と指摘しています。

 その上で、「被爆者は、
『ふたたび被爆者をつくらない』ことを願い、『原爆被害への国家補償』と『核戦争起こすな、核兵器なくせ』を求めてきた。この二つの要求を実現し、核兵器による人類絶滅の危機を救うために、さらに努力することを決意する」としています。

裁判続く長崎の原告団長は
 長崎では、原爆が投下されたときに国が
被爆者と認める地域の外にいた「被爆体験者」を被爆者と認めるよう求める裁判が続いています。

 原告団長の岩永千代子さんは、いわゆる「黒い雨」をめぐる裁判で、菅総理大臣が上告しない考えを明らかにしたことを受けて、「原告のこれまでの
苦しみ、願いが伝わったと思うと歓喜の気持ちでいっぱいです。広島市や県が上告しないよう国に要望するなど原告の立場に立っていて、それが今回の決定につながったのだと思う」と話していました。

 その上で自分たちの裁判については、「長崎の被爆体験者も
高齢化しているので、裁判で戦っている私たちや埋もれている被爆者の救済にいち早く繋がってほしい」と述べ、国などに対し早期の救済を訴えました。
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記事3


「黒い雨」裁判 政府上告せず 被爆者認定のための指針見直しへ
2021年7月27日 6時16分 NHK

 広島に原爆が投下された直後に放射性物質を含む、いわゆる
「黒い雨」を浴びて健康被害を受けたと住民などが訴えた裁判で、政府は上告しないことを決めました。
今後は、原告と同じような状況で被害にあった人を、どう
救済していくかが課題になります。

 広島に原爆が投下された直後に放射性物質を含むいわゆる「黒い雨」を浴びて
健康被害を受けたと住民などが訴えた裁判で、2審の広島高等裁判所は、今月14日、原告全員を、法律で定める被爆者と認める判決を出しました。

 厚生労働省や法務省から、
判決内容は受け入れがたいとして「上告はやむをえない」という意見が根強くある中、菅総理大臣は26日、「被爆者援護法に基づいて、その理念に立ち返り、救済すべきであると考えた」と述べ、上告せずに原告に被爆者健康手帳を交付する考えを示しました。

 これについて、政府内からは「被告の広島市と広島県が、上告断念を求める中で、上告しても裁判に勝てる見通しがない」という見方があったほか、与党内からは、菅総理大臣の
政治決断だとして「来月6日の原爆の日を前に、上告すれば政権への批判が噴き出しかねなかった」とか、衆議院選挙を控え「賢明な判断だった」と支持する声が出ています。

 また菅総理大臣は、原告と同じような状況で
被害にあった人の救済を早急に検討する考えも示していて、今後は、こうした人たちをどう救済していくかが課題になります。

 政府は今後、被爆者を認定するための指針の見直しを行うことにしていて、広島市や広島県に加え、長崎市や長崎県も交えて、
救済範囲を検討していくことにしています。

 一方、政府は、判決には
受け入れがたい部分もあるとして、近く、持ち回りの閣議で、判決への見解や対応などについて総理大臣談話を決定することにしています。
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 3つの記事では、共通して「健康被害」と、「救済」という言葉が何度も繰り返し使われていますが、それ以上のことは何も説明がありません。原告達に何らかの被爆による健康被害が存在し、救済が必要であるかどうかが、判断のポイントだと思いますが、その点について何も触れずに、「上告しても勝ち目が無い」とか、「選挙への影響」が論じられ、報じられるのは、とてもまっとうな議論・報道とは思えません。
 なお、
法律は被爆者“援護”法であるにも拘わらず、原告やこの記事ではすべて“救済”としているのは、微妙なところで話をすり替えています。

 記事で
健康被害と有るだけで、傷害、障害、症状、後遺症とは書いてないと言う事は、例え何らかの「健康被害」が存在し、それと原爆との間に因果関係がある事が否定出来ないとしても、極めて軽症である(少なくとも重症では無い)事が窺われます。
 
原爆特有の悲惨な症状・実態があるならともかく、被爆から76年経過し(とっくに“時効”)、原告達は見たところは健常者と何ら変わるところ無く、高齢であっても、元気に抗議活動に参加する人達が、救済を要する悲惨な症状・実態があるようには見えません。
 仮にあったとしても、それは現在の
健康保険制度、福祉制度の下で十分対応が可能と思われます。それ以上の給付をする理由がありません。

 そして、具体的な
「救済」方法について、何の議論も報道も無く、繰り返し「被爆者健康手帳」に言及されていて、判決主文も「被爆者健康手帳の交付を命じる」というものであったようですので、救済方法は何の議論の対象でも無く、要は「手帳の交付(高額な一律給付金給付の可否)」と言う法律論だけが争点であったようです。

 ちなみに被爆者援護法による
「被爆者健康手帳」と、国の手当等(令和2年4月現在)と支給金額(月額)は、次のとおりです。
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被爆者健康手帳
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A2%AB%E7%88%86%E8%80%85%E5%81%A5%E5%BA%B7%E6%89%8B%E5%B8%B3

 被爆者健康手帳(ひばくしゃけんこうてちょう)は、1945年(昭和20年)の原子爆弾投下により被爆した人に対して「原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律」(通称「被爆者援護法」)に基づき交付される手帳。所定の要件を満たした者は、
医療費などの支援を受けることが出来る。
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被爆者援護法による国の手当等(令和2年4月現在)と支給金額(月額)は、次のとおりです。(長崎市のホームページより)
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被爆者援護法による国の手当等(令和2年4月現在)と支給金額(月額)
(http://city.nagasaki.ajisai-call.jp/faq/show/2708?site_domain=default )

1 医療特別手当       142,170円
2 特別手当         52,500円
3 原子爆弾小頭症手当    48,930円
4 健康管理手当       34,970円
5 保健手当         17,540円(本人の状態によっては、34,970円)
6 介護手当  
   費用介護(重度)    105,560円以内   
   費用介護(中度       70,360円以内
   家族介護        22,320円
7 葬祭料          209,000円
(平成27年度〜令和元年9月30日までに亡くなった場合、206,000円)
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 今回の事態は“被爆者援護法”という、被爆者を
特権的な地位に押し上げて、大盤振る舞いで金銭をばら撒くザル法(欠陥法令)がもたらした混乱と言うべきです。(今回の被爆者認定は被爆時に遡って適用されると言う事はあるのでしょうか)

 先頃
通常爆弾による爆撃の負傷者(犠牲者)達が、“救済”を求める活動をしていることが報じられましたが、この原爆被爆者達の金額を見て、彼らの現状・日常を知れば、その不公平さに憤りを感じて、「彼ら(原爆被爆者)がこのような好待遇を受けられるのであれば、自分たちも・・・」と言う気になる人が出てくるのは十分あり得ます。
(参照 F118 戦時下の空襲の犠牲者は戦争「被害者」か、それなら「加害者」は誰なのか)

 菅総理大臣は、「被爆者援護法に基づいて、
その理念に立ち返り、救済すべきであると考えた」と述べていますが、それでは、今までの主張の全否定に他ならないと思います。いくらそれを取り繕う「談話」を公表しても、その矛盾を正当化することは出来ません。

 現行の被爆者援護法は不正に近い不公平な制度であり、早急に改められるべきだと思います。(参照 F63 被爆者援護法の廃止を −既に役割は終わった−

令和3年7月28日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ