G39
人口減少の回復策について何も語らず、「人口減少時代」に即した経済政策について論じるだけの立正大学の吉川洋学長 ピント外れ思考停止脳死講義では大学生が勉強しなくなるのは当たり前−

 6月9日の読売新聞に、「令和の経済課題 
人口減時代 成長するには…吉川洋 立正大学長」という見出しで、吉川学長の意見が掲載されていました。
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[地球を読む]令和の経済課題 人口減時代 成長するには…吉川洋 立正大学長
06/09 05:00  読売

吉川洋氏 1951年生まれ。東大教授などを経て2016年4月に立正大教授、19年4月から学長。内閣府の景気動向指数研究会座長。社会保障国民会議座長、財政制度等審議会会長なども歴任

 令和という元号とともに新しい時代が始まった。われわれ日本の社会・経済はこれからどうなるのか。時の節目に誰しもが思うことだろう。

 改元を目前にした4月19日、国立社会保障・人口問題研究所が世帯数の将来推計を公表した。衝撃的なのは、
世帯数が減ることよりも、2040年には全体の4割が一人暮らしの世帯になることだ。

 
都道府県別にみると、全世帯に占める高齢世帯(65歳以上)の割合が一番低いのは東京都の36・3%である。しかし、高齢世帯に占める一人暮らしの割合では、東京都が45・8%と一番高い。大都会で孤独に暮らす高齢者が急増する。

 こうした将来像は決して明るいものとは言えない。思えば
平成も終盤に入った頃から、人口問題が日本の社会・経済を語る時のキーワードとなった。2年前に公表された将来推計人口では、約100年後の2115年に日本の人口は5055万人まで減少する。これは約100年前、大正初めの人口にほぼ等しい。

 急激な人口減少と高齢化がわれわれの社会・経済に
深刻な問題を生み出すことは、今や広く認識されている。社会保障・財政の将来が危うい。「消える市町村」という言葉に象徴されるように、地域によっては極めて厳しい状態になる。

 高齢社会では格差も拡大する。若い現役世代と比べて
高齢者の間では、所得、資産、健康状態などは人によって違いが大きくなるからだ。グループ内で差が大きい高齢層が増えるにつれて、社会全体でのばらつきも大きくなる。こうして高齢化の進行とともに格差が拡大してきた。

 高齢層だけではなく、現役世代でも
格差が広がった。正規と非正規雇用の格差である。平成が幕を開けた頃には6人に1人だった非正規は、今や働く日本人の4割近くに増大した。

 
格差はいつの時代も人間社会の大きな問題だった。資本主義経済200年の歴史も例外ではない。そうした中で19世紀後半から、ヨーロッパの先進国が格差の防波堤として築き上げた制度が、社会保障にほかならない。日本では1961年にすべての国民をカバーする公的年金と医療保険の制度が確立した。

 年金も医療保険も主として
現役世代が保険料を払い、高齢者が受給する。少子高齢化に伴い、払う人が減り、受け取る人が増えれば、やりくりは窮屈にならざるを得ない。

 現在120兆円を超える社会保障の給付総額のうち、保険料で賄われるのは6割にも満たない。不足分は、国・地方の「公費」で負担している。しかし税収自体が足りないのだ。


逆境は技術革新の好機

 こうして社会保障の負担がそのまま財政赤字に平行移動しているのである。

 毎年の財政赤字が蓄積した結果である借金の「残高」は膨張している。国際通貨基金(IMF)によると、国、地方、社会保障基金を合わせた一般
政府の債務残高の国内総生産(GDP)比(2018年)は、日本は237%となり、世界188か国・地域のうち最悪だった。日本の財政赤字はもはや持続可能ではない。

 平成の30年間、政府はいくども財政再建の旗を揚げたが、成功しなかった。とりわけ目玉と言える消費税率の引き上げに政治は及び腰だった。
消費増税がなぜ必要なのか、社会保障の全体像と合わせた説明が十分になされてこなかった。平成から令和へと残された大きな宿題である。

 令和の日本経済にとってもう一つの大きな課題が、
経済成長だ。

 成長を目指すと言っても、人口が減少していく日本経済では、よくてゼロ成長、素直に考えればマイナス成長だろう――という見方が広がった。しかし、これは正しくない。
人口減少自体は、経済成長にとってマイナスに働くが、先進国の経済成長は、主として「1人当たり」のGDPの伸びによってもたらされるものだからである。

 1人当たりの所得の上昇を生み出すもの、それはどこの国、いつの時代も、
イノベーション(技術革新)だ。平成の日本経済が閉塞へいそく感を打破できなかったのは、人口減少ではなく、イノベーションで米国、中国をはじめ世界の国々に後れをとったからである。

 平成が幕を開けた時、世界の
株式時価総額上位20社のランキングにおいて、1位のNTTから始まり日本企業は15社を占めていた。現在では20位までに入る日本企業はない。

 イノベーションの立ち遅れは、
「ブランド力不足」という問題も生み出す。ブランド力があれば、輸入原材料の価格が上がっても、それを輸出する製品価格に転嫁できる。低価格ではなく、「質」で勝負できるからだ。しかし日本勢にはそれができない。そのため、原油価格が上昇すると、所得が外国に流出してしまう。内閣府の国民経済計算によると、貿易に伴う購買力の変化を示す「交易利得」は2000年代初めは約20兆円あったのに、14年には2・3兆円のマイナス(損失)にまで減少した。

 令和の今日まで、日本は一貫して「円高脅威論」に支配されてきた。円高の時、ドルやユーロなど輸出先の現地通貨建ての価格を上げることができればよいのだが、それができないから輸出企業の経営は苦しくなる。これも原因はブランド力の欠如にある。イノベーションの乏しい経済、それはヒット商品のない企業のようなものだ。いろいろ工夫しても閉塞感を払拭ふっしょくできない。平成の日本経済はこんな状況だった。

 
人口が減る日本でイノベーションは可能なのか。そういう疑問を持つ人もいるようだ。人口、とりわけ現役世代が減る中で、通勤客相手の鉄道会社は文字通り「右肩下がり」の経営環境にあると言われたものだ。しかし18年度の決算をみると、大手私鉄各社は軒並み増収である。外国人観光客の増加による影響もあるが、業績を押し上げているのは有料の通勤特急だ。遠距離通勤の人には、数百円の追加料金を払っても座って乗車したいという潜在的な需要があったのだ。

 
新しいモノ・サービスを生み出すイノベーションの基本は、このように人々が何を求めているかを的確に見いだすことにある。米アップルを創業したスティーブ・ジョブズがやったのも、こうしたことだ。

 多くの問題を生み出す
少子高齢化は、実はイノベーションの機会でもあることが分かるだろう。少子高齢化の中で多くの人が困っているからだ。社会的な課題があることは、それを解決するイノベーションが待たれていることにほかならない。令和が日本経済復活の時代になるために必要なのは、新しいことに挑戦する勇気であり、そうした人を励ます社会である。

地球を読む
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 吉川学長は日本の人口減少を異常事態、非常事態として捉えず、その
回復策には一言も触れずに、「人口減時代」について論じ、「少子高齢化は、実はイノベーションの機会でもある」として、あたかもチャンスであるかのごとく、細かい議論を展開しています。

 その細かい議論の当否よりも、この期に及んで問題の本質である「人口減少の回復策」あるいは「回復に向けての経済施策」について一言も触れずに、人口減少時代に
即した経済政策として、細かい議論しかしていないことに驚き、あきれます。

 吉川さんは、世帯数の減少を示すデータの話から入って、高齢者の単身世帯の増加に注目して問題点を論じていますが、問題は世帯数の減少でも、高齢者の一人世帯の増加でもありません。消滅する市町村の問題でも、高齢者間の格差でも、正規・非正規間、年金世代間格差でもなければ、財政再建、経済成長の問題でもないのです。

 吉川さんは無分別に
話の領域を広げていますが、これらはすべて問題の本質である「少子化とそれに伴う人口減少問題」から派生する問題であって、派生問題をいくら論じたところで、それは単に本質問題の対症療法を論じるに過ぎず、仮に対症療法が効果があったとしても、本質問題の何の解決にもならないのです。仮に財政再建が成功したとしても、少子化の原因が改善されなければ、少子化と人口減少は続き、更に深刻の度が増すことになるのです。

 「
人口減少自体は、経済成長にとってマイナスに働くが、先進国の経済成長は、(人口増に依らず)主として『1人当たり』のGDPの伸びによってもたらされる」と言っていますが、それは人口増加はしていないものの、概ね現状の人口規模を長期に渡り維持している国に当てはまる事例であって、今後の日本がたどるような顕著な人口減少が長期間続いて、なおかつ経済成長を維持している事例は聞いたことが有りません。

 続いて吉川さんは
イノベーション(技術革新)の重要性を論じて、日本の奮起を促し、その成功事例として、現役世代が減る中で、通勤電車に有料の指定席を設けた事例を紹介していますが、イノベーションと大げさに言うほどの事例でしょうか。金額の規模も、将来性・発展性も極限られていて、それが人口減少に対して良い影響が有るとはとても考えられません。

 イノベーションがあっても、人口減少の原因が解消されなければ、
減少は止まりません。人口の減少はすべてにマイナスであり、これにストップを掛け、人口増加に反転させなければ、いかなるイノベーションも焼け石に水である事は、容易に想像がつきます。

 吉川さんは、根本の問題である人口減少に対する回復策を何も示さず、それに伴う副次的な問題に対する
対症療法の議論に終始しています。
 これは私がH108「少子化・人口減少の加速に直面し、思考停止・脳死状態に陥っている読売新聞・厚労省」で指摘した「読売新聞(マスコミ)、厚労省の
思考停止、脳死状態」と全く変わりがありません。

 このような人達が
大学で教授を務めていて、ここに展開されているような内容の講義をしたら、果たして学生達は、勉学意欲をそそられるでしょうか。ほとんどの学生は関心を示さないと思います。
 「人口減時代」とタイトルに銘打ちながら、その解決策に何ら触れること無く、多方面の
派生的な問題に、大風呂敷を広げただけの、数々の対症療法の議論に終始していることは、学生にも容易に感じ取ることが出来ると思います。

 昨年10月に、産経新聞に、
「日本の大学生はなぜ勉強しない」と言う見出しの記事がありましたが(G38 なぜ日本の大学生は勉強しない? −劣化が進む日本の教育−)、この学長の記事はその「なぜ」に対する一つの回答になっていると思います。
 こう言うピント外れの、
思考停止、脳死講義を止めさせない限り、日本の大学生が勉学に打ち込む日は遠いと言わざるを得ません。

令和元年6月20日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ