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原因を突き止めず、「背景」の変更に大金をつぎ込んできた、少子化対策「無策」の30年 −彼ら(彼女ら)は確信犯−

 5月30日の読売新聞は、
「5年で出生率1・8 目標 少子化大綱…児童手当の拡充検討 閣議決定」と、
「少子化大綱 「出生数86万人」に危機感…目標実現 財源乏しく」
 と言う見出しの2つの記事で、第4次「少子化社会対策大綱」について、次のように報じていました。


 第4次少子化社会対策大綱(概要) 内閣府ホームページより https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/law/taikou_r02.html

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5年で出生率1・8 目標 少子化大綱…児童手当の拡充検討 閣議決定
20200530 0500 読売
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 政府は29日、今後5年間の子育て対策の指針となる「少子化社会対策大綱」を閣議決定した。
数値目標として「希望出生率1・8」の実現を初めて明記したのが特徴だ。具体策には不妊治療にかかる費用負担の軽減や児童手当の拡充検討などを掲げ、経済的支援出産・子育て環境を整備すると打ち出した。


2020年5月30日 読売新聞(朝刊)


 
安倍首相は29日の閣議で、「新型コロナウイルスの収束後に見込まれる社会経済や国民生活の変容も見据えつつ、思い切った取り組みを進める」と強調した。

 
希望出生率は、結婚や出産などの希望がかなった場合に想定される出生率。大綱では「希望するタイミングで希望する数の子供を持てる社会をつくる」として、その実現を目標に掲げた。

 
不妊治療では、高額な医療費がかかる体外受精や顕微授精に助成するほか、効果が明らかな治療に医療保険を適用することを検討する。児童手当では「(3人以上の子供がいる)多子世帯や子供の年齢に応じた給付の拡充・重点化が必要」と方向性を示した。一方で、それ以外の世帯にも支援を広げるため、対象となる子供の数や所得制限水準の見直しも検討するとした。

 大綱は、
未婚化・晩婚化などの背景に、経済的な不安定さや教育費負担があると指摘した。政府としては、大綱に盛り込んだ施策を具体化させることで子育て世代の経済的基盤を安定させ、出生率の上昇につなげたい考えだ。

 大綱はおおむね5年ごとに見直されており、今回が第4次。合計特殊出生率は2005年に過去最低の1・26を記録し、現在も1・42(18年)にとどまり、1995年以降1・5を割り込んでいる。
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少子化大綱 「出生数86万人」に
危機感…目標実現 財源乏しく
20200530 0500 読売
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 政府が29日に決めた少子化社会対策大綱で「希望出生率1・8」の実現を目標に掲げたのは
強い危機感の裏返しだ。財源不足にあえぐ中、大綱に盛り込んだ施策を具現化するのは容易ではなく、実現への道のりは険しい。

 
「86万ショック」

 大綱は冒頭で、2019年の推計出生数が過去最少の86万人だったことをこう表現し、
歯止めがかからない少子化への危機感を率直に示した。厚生労働省が昨年12月にこの推計を発表すると、安倍首相は「これは国難だ」と語り、衛藤少子化相に大綱で対応策を打ち出すよう発破をかけたという。

 
安倍政権は「待機児童ゼロ」の目標を掲げたり、19年10月から幼児教育・保育の無償化を開始したり、子育て支援に積極的に取り組んできたとの自負もあった。それだけに「86万ショック」は政府内で重く受け止められたようだ。

 今回の大綱には、希望出生率の実現以外にも様々な目標が盛り込まれた。
男性の育休取得率を30%、1人目の子供を産んだ女性が継続して就業する率を70%にすることなどだ。また、保育所の待機児童を20年度末に解消すると掲げた。

 しかし、これらの目標達成のため、大綱で盛り込んだ施策を実現するには
数兆円規模の財源が必要だ。政府は新型コロナウイルス対策として補正予算を編成したが、その事業規模は233・9兆円に上る。感染症対策は長期化が予想され、さらなる財政出動の可能性がある。経済の回復は見通せず、政府の税収入の落ち込みも避けられそうもない。

 実際、個別事業では
手当ての不十分さを指摘する声が出ている。例えば、住宅購入費用などとして最大30万円を補助する結婚新生活支援事業について、大綱は拡充の方向を示した。内閣府はすでに補助額の上乗せや対象範囲の拡大などを検討しているが、「子育てに必要な長期的な支援としては乏しい(識者)

 内閣府の少子化克服戦略会議で座長を務めた松田茂樹・中京大教授(社会学)は「これまでの大綱と比べて、
さらに網羅的な対策が打ち出されたことを評価したいが、実現には財源確保が必要だ。国民の負担増について議論しなければならない」と指摘している。
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 平成16年版 少子化社会白書(概要)より
第2節 少子化社会対策基本法と少子化社会対策大綱の策定
https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_g/html/gg152000.html

1 少子化社会対策基本法の成立と施行
  (省略)
2 少子化社会対策大綱の策定
○ 2004(平成16)年6月、少子化社会対策基本法に基づき、少子化に対処するための施策の指針として、少子化社会対策大綱が策定された。同大綱では、3つの視点と4つの重点課題のもとに、28の具体的な行動を掲げ、内閣をあげて取り組むこととしている。

○ 2004(平成16)年中には、少子化社会対策の具体的実施計画である新新エンゼルプラン(仮称)を策定することとしており、わが国の少子化社会対策は新たなステップを踏み出している。

第1‐5‐5図 少子化社会対策大綱の3つの視点と4つの重点課題


第1‐5‐6図 重点課題に取り組むための28の行動

2004(平成16)年6月、少子化社会対策大綱より
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平成16年版(第1次)少子化社会対策大綱
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kodomo/pdf/shousika-daimou.pdf#search='shoushika_taikou.pdf'
2 少子化の流れを変えるための3つの視点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 2
(2)不安と障壁の除去
『子育ての不安や負担を軽減し、職場優先の風土を変えていく。』・・・・ 2
 結婚や出産は個人の決定に基づくものであることはいうまでもない。近年、
未婚化、晩婚化が進んでいるが、その背景には結婚に対する考え方の変化がある。また、結婚を望んでも出会いの機会が限られるという状況や、出産を希望しても仕事と子育ての両立の困難からあきらめるといった状況がしばしば指摘される。(以下略)
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記事は第4次少子化社会対策大綱の策定に当たり、現状を「歯止めの掛からなかった少子化」と認識していますが、遅きに失しています。
 1990年の1.57ショックから今までの
30年間、少子化対策が何の成果もなかったことを明確に再確認し、特に第1次大綱から第3次大綱までの施策について反省し、多くの誤りを確認することが、第4次を作成するに当たっての最初の一歩となる重要な仕事だと思いますが、残念ながら今回の大綱に反省の部分は見当たりません。

 まず、この「大綱の概要」を見ての第一印象ですが、少子化対策の枠を遙かに超えた超大風呂敷を広げていると言う感じです。そして内容の多くは、「男女共同参画社会の推進」「子育て支援対策」等であり、肝心の少子化対策に当たる部分はほとんどありません。
 これを書いた担当者(女性?)の立場から、この少子化というまたとない
チャンスに、言いたいことは全部言おうというのが基本的スタンスと受け取れます。

 大綱の目的は「少子化」に歯止めをかけ、「増子」を実現することであるはずです。であれば、本来「大綱」の名称は「少子化社会対策大綱」ではなく、「少子化対策大綱」であるべきだと思います。しかるに「社会」の一言を入れることによって、何が対策を講じるべき問題なのかの焦点がぼかされ、すり替えられてしまいました。
 その為に、
共働きの母親に対する支援(男女共同参画社会の推進)が、少子化対策の一環であるかのようなごまかしがまかり通ってしまったのです。

 更に「第4次大綱の概要」を見ても分かるように、少子化の直接原因未婚・晩婚の増加と把握していたにも関わらず、さらにその未婚・晩婚の増加の原因を究明することをせず、話を未婚・晩婚増加の「背景」にすり替えて、背景論でごまかしてしまいました。
 その結果、
問題点→原因1→原因2(原因1の原因)→対策→結果と議論が繋がるべきところが、問題点→原因・・・背景→対策→結果となってしまい、問題点と対策が繋がらず、(当然ですが)期待された結果が出ないという事態となってしまいました。

 
問題点の対象範囲の認識でのごまかしに続き、少子化問題とは無縁の“男女共同参画社会の推進”、“子育て支援対策”を少子化対策の要として採用するのは、致命的な誤りでした。
 この誤った対策を
長年繰り返し、当然の結果として本来の「増子」の目的を達成できず、以後反省することなく同じ失敗を続けてきたのです。

 この
「背景」と言うごまかし論理については、「I71完全に破綻した厚労省の少子化対策 その原点は1994年の『エンゼルプラン』にある(その2) −少子化と保育所はもともと無関係−」でも述べていますが、1994年のエンゼルプランの時から変っておらず、効果が無くても相変わらず同じ事を言っています。

 そして2004年の第一次の「少子化社会対策大綱」を見てみますと、当時は既に未婚化・晩婚化が顕著になっている(I70 完全に破綻した厚労省の少子化対策 その原点は1994年の「エンゼルプラン」にある(その1)参照)にも関わらず、「近年、
未婚化、晩婚化が進んでいるが、その背景には結婚に対する考え方の変化がある。

 また、結婚を望んでも
出会いの機会が限られるという状況や、出産を希望しても仕事と子育ての両立の困難からあきらめるといった状況がしばしば指摘される」と、軽く触れただけで、少子化の「原因」として未婚・晩婚の増加の議論を進める姿勢は全く見られません。
 また、これらの
認識の根拠となるデータは何も示されておらず、「大綱」作成者の思い込み妄想の可能性が否定出来ません。
 未婚・晩婚の当事者に真摯に接すること無しに、その増加原因を把握することは出来ません。

 結局、少子化の直接の「原因」が未婚者、晩婚者の増加である事は確認したが、未婚者、晩婚者の増加「原因」は確認しようとせず、
「原因」とは関係が明らかでない、根拠のない「背景」の指摘・提示で話をすり替え、その後は「背景」を変える対策(男女共同参画社会の推進子育て支援対策)に突っ走って来たのです。

 少子化対策の30年を通じて、仮に政策立案者にとって
十分では無かったにしても、「男女共同参画社会の推進」「子育て支援対策」は、着実に充実を重ねていきました。しかるに少子化は改善するどころか、ますます加速して行きました。

 そうであれば、
ある程度の段階で「男女共同参画社会の推進」や、「子育て支援対策」は少子化対策にならないむしろ“有害”では無いのかと言う、疑問の声が上がってしかるべきでした。しかるに実際には30年経過した今になっても、「男女共同参画社会の推進・子育て支援対策見直し論」はどこからも聞こえてきません。

 
盛大に打ち上げられた「少子化対策」は、最初から少子化対策ではなかったのです。30年経過して、何の成果もなく失敗に終わったのは当然のことだったのです。彼ら・彼女らが反省しないのは、最初から効果がないことは解っていた“確信犯”だったのかも知れません。
 そうでなかったら、
失敗を失敗と、敗北を敗北と認識できない愚か者の集団としか考えられません。

 記事にある「86万ショック」 と言う表現は、
危機感の表れと言っていますが、そういう彼らが作った第4次の「大綱」に書かれている対策は、ほとんどすべてが、従来の対策の延長線上の対策で、彼らの口からは反省の言葉も無くそこには何ら危機感は感じられません。

 今示せるのは
“危機感”だけの厚労省、目標を立てても達成出来そうもないことが解っているから、今から“財政難”に責任転嫁する準備をしています。

 今になっても
“国難”と言うだけ、担当閣僚に発破をかけるだけで、具体的な指示は大筋も細目も何も出せてない安倍総理「待機児童ゼロ」「幼児教育・保育の無償化」が、自負できる少子化対策と認識しているとすれば、かなりピント外れと言わざるを得ません。
 これらは仮に何らかの意義が見出せるとしても、それは単なる
対症療法に過ぎず、少子化の改善に寄与するものではありません。彼は未だにそんな事も解らないのでしょうか。

 
子供がいないどころか、実質的には妻もいない安倍総理が、子持ちの女性官僚には何の指示も命令も出来ない実態は容易に想像がつきます。
 そういう
事情を知っていながら、何の批判もなく報じる読売新聞他の日本のマスコミの責任も重大です。

 今までの30年に及ぶ不毛の「少子化対策」で1番良い思いをしたのは誰か、そこを考えると真犯人が見えてくると思います。

 我々が今、目にしているのは、まさに、
少子化対策の破綻と言論の自由の無い社会の現実の姿です。悲惨な時代の幕開けとならない事を祈るばかりです。

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