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「少子化対策」として実施された各種の「子育て支援策」は、成果無く失敗に終わった。失敗に終わった政策を廃止せずに、今なお継続・拡大するのはなぜか

 1月19日の読売新聞は、下記の様に「菅首相の施政方針演説 全文」を報じていました。
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菅首相の施政方針演説 全文
20210119 0500 読売
新型コロナ
[読者会員限定]


菅首相の施政方針演説が行われた衆院本会議
(18日午後、国会で)=源幸正倫撮影


 (中略)以下項目のみ記載

1 新型コロナ対策
2 震災復興
3 脱炭素・デジタル
4 地方活性化

5 
少子化・社会保障
 希望と活力に満ちた日本を未来につないでいくためには、世界に冠たる我が国の社会保障制度を次の世代にしっかり引き継いでいかねばなりません。これが我々の世代の責任です。

 給付は高齢者中心、負担は現役世代中心という構造を見直し、未来を担う子どもからお年寄りまで全ての人が安心できる社会保障への改革を進めていきます。

(子育て支援)
 
長年にわたり、我が国の最大の課題と言われてきたのが「少子化」の問題です。

 結婚や出産、子育てを希望する方々の声に丁寧に耳を傾け、一つ一つの望みを実現していきます。

 年間で5万7000人のお子さんが、
不妊治療により生まれています。子どもが欲しいと願い治療を続ける皆さんに寄り添い、不妊治療の保険適用を、来年4月からスタートし、男性も対象にします。それまでの間は、現行の助成制度の所得制限を撤廃するとともに、2回目以降の助成額を倍にし、予算成立後、1月1日にさかのぼって実施します。

 不妊治療と仕事の両立に、後ろめたい思いをさせてはなりません。不妊治療休暇を導入する中小企業を支援し、社会的機運を高めます。

 
不育症に悩む方には検査費用最大5万円の助成、若年者へのがん治療に伴う不妊への支援拡充など、きめ細やかに、対応してまいります。

 長年の懸案である
待機児童問題については、女性の就業率の上昇も見込んだ上で、4年かけて14万人分の保育の受け皿を整備し、最終的な解消を図ってまいります。そのため、幼稚園やベビーシッターの活用など、地域の子育て資源をフル活用します。

 出産・育児の負担がこれまで女性に偏ってきた中で、
男性の育児参加という「当たり前」のことを実現していきます。

 男性国家公務員には1か月以上の育休取得を求めています。全ての企業に対し、男性が育休取得しやすい職場環境を整備することを義務付けるとともに、希望に応じて1か月以上の休業を取得できるようにしていきます。

 全国の
小学校について、現在の40人学級を40年ぶりに人数を引き下げ、35人学級へと改めます。現場で子どもの状況を把握し、一人一人にきめ細かい教育を実現します。

 女性の登用拡大や
女性に対する暴力根絶など、基本計画で掲げられた目標の達成に向けて全力で取り組みます。女性と男性が互いに尊重し合い、全ての女性が輝く令和の社会をつくり上げてまいります。

(社会保障改革)
6 外交・安全保障
7 おわりに
 
憲法は、国の礎であり、そのあるべき姿を最終的に決めるのは、主権者である国民の皆様です。国民から負託を受けた政治家がその責任に正面から向き合い、与野党の枠を超えて憲法審査会の場で議論を深め、国民的な議論につなげていくことを期待します。

 安定的な
皇位の継承などに関する課題については、衆参両院の委員会で可決された付帯決議の趣旨を尊重し、対応してまいります。

 (中略)

 私は、47歳で初めて衆院議員に当選したとき、かねてよりご指導いただいていた当時の梶山静六内閣官房長官から、二つのことを言われ、以来、それを私の信条としてきました。

 一つは、今後は右肩上がりの高度経済成長時代と違って、
少子高齢化と人口減少が進み、経済はデフレとなる。お前はそういう大変な時代に政治家になった。その中で国民に負担をお願いする政策も必要になる。その必要性を国民に説明し、理解してもらわなければならない。

 もう一つは、日本は、戦後の荒廃から国民の努力と政策でここまで経済発展を遂げてきた。しかし、資源の乏しい日本にとって、これからがまさに正念場となる。国民の食い扶持(ぶち)をつくっていくのがお前の仕事だ。

 これらの言葉を胸に、「国民のために働く内閣」として、全力を尽くしてまいります。

 ご清聴ありがとうございました。

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 菅総理は
少子化(人口減少)対策を、演説の終わりの方の、「5 少子化・社会保障の項目の中の、(子育て支援)」の中の位置づけで論じています。最初から少子化対策=子育て支援です。

 少子化問題は
1989年のいわゆる「1.57ショック」を契機に重要課題として認識され、以後国家の喫緊の重要課題として様々な対策が取られてきました。そしてその対策のほとんどすべては、保育所の増設や、子育て休暇の新設などの共働き家庭(妻)に対する「子育て支援策」でした。
 
 それから
30年余りが経過して、「少子化」は改善するどころか、深刻の度合いを増して来ました。

 「子育て支援」は30年余り続けられてきたものの、菅総理が「
長年にわたり、我が国の最大の課題」と認識しているとおり、長年未解決の課題であり続けてきました。

 現状を要約すれば、
 1.少子化対策が30年余り継続されてきたものの、何の
成果もなく大失敗であったこと。
 2.少子化対策として実施されてきたのは、
共働き家庭(妻)に対する「子育て支援」に過ぎなかったこと。
 3.対策が失敗であったにも拘わらず、
失敗と認識されず反省もなく、今なお継続・拡大されていること。

 以上の様になると思います。

 「10年一日」どころか、
「30年一日」子育て支援だけではさすがまずいと思って、今年から追加したのが、「不妊症支援」「不育症支援」というところでしょうか。

 この記事の前にこれに関係する下記2件の記事がありました。
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保育士確保へ待遇改善 必要…待機児童解消 政府新プラン
2020/12/23 05:00 読売
[読者会員限定]
 政府が21日に公表した「新
子育て安心プラン」は、2021〜24年度に約14万人分の保育の受け皿を追加整備することなどを柱としている。今年4月1日時点で全国に約1万2000人いる待機児童について、「できるだけ早く解消を目指す」としているが、保育士不足への対応が不可欠だ。(生活部 木引美穂、社会保障部 村上藍)

(中略)

少子化歯止め 支援手厚く
 新プランに盛り込まれた14万人分の保育の受け皿の実現には、追加で1440億円の費用がかかる。政府は高所得世帯の61万人分の児童手当の廃止などで約440億円を確保し、残りの約1000億円は企業が負担する事業主拠出金でまかなう方針だ。

 事業主拠出金は、企業が社会保険料に上乗せして支払い、保育施設の整備や児童手当の一部に充てられている。保育施設などを整備することは、子育てをしながら働ける環境をつくり、企業が労働力を確保するのに役立っているため、負担してもらう仕組みだ。

 現在の子育て安心プランでは、約32万人分の受け皿を確保するのに、消費税からの約500億円と、事業主拠出金からの約3000億円が充てられている。

 児童手当の一部廃止で新プランの財源を捻出する手法は、
子育て支援予算の付け替えにも見える。「子育て支援のあり方から外れる」などの批判もある。少子化に歯止めをかけるには、高齢者に偏りがちな支援を子育て世帯に振り向け、手厚くする必要がある。
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 この記事は、現在なお「少子化対策」として従来の「子育て支援」が
継続されていだけでなく、さらに拡大を続けていることを示しています。「少子化に歯止め」どころか、“脱線・暴走に歯止め”が掛かっていません。
 もう1件の記事は下記です。
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[とれんど]結婚したいと思える政策を…論説委員 川嶋三恵子
2021/01/16 15:00 読売
[読者会員限定]
 60年に1度の丙午ひのえうまにあたる
1966年(昭和41年)は、出生数が前年比25%減に落ち込んだ。丙午生まれの女性は気性が激しいという迷信が影響したためだ。

 そうは言っても、第2次ベビーブーム前の人口増加期である。この年には136万人が生まれ、反動があった翌年は193万人が誕生した。両年をならせば、
年164万人が生まれた計算だ。

 この数字を見ると、
今の少子化の深刻さを痛感する。2019年の出生数は86万人で、20年はそれを下回る見込みだ。当時に比べ、ほぼ半分の少なさである。

 そこにコロナ禍が追い打ちをかけた。厚生労働省によると、昨年1〜10月に出された妊娠届は前年同期より5%減り、結婚件数も約6万件減った。民間の調査機関は早くも「今年の出生数は
80万人を割り込む」と予測している。

 
どうすれば良いかと問われると気が重いが、社会学者の山田昌弘さんは「少子化の主因は未婚化だ」と喝破している(『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』)。

 結婚して子供を育てても、生活水準を維持できるようにする。世間体を気にせず、幸せを追求できるようにする。若者が
結婚したいと思えるような政策が大切だという指摘にはうなずける。

 やむを得ない事態とはいえ、外出自粛を求められ、今の若者は結婚や恋愛どころか、出会いの機会さえ失っているのかもしれない。次の丙午は5年後の26年だ。
早く何とかしなければ、と思う。
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 「
今頃何を言っているのか」と言う気がしますが、ほんの少しだけ正直な人もいるのです。
 失敗を
失敗と認識する事が次の一歩へ進む必要条件です。次の一歩とは、失敗であると認識した以上は、長年続けてきた効果の無い施策(子育て支援)放置せずに廃止する事です。
 そして
原因(未婚の増加)に対応する、実効性のある新たな対策を実行に移さなければならないという認識を持つことです。それを言わないと「失敗の認識」の本気度が疑われます。

 しかるに、川嶋三恵子論説委員の口からは
「廃止」の言葉はなく、「何とかしなければ」という言葉のみです。 
 これは一体なぜなのでしょうか。一つには、「
頭脳明晰とは言えず、考えが及ばない」と言うことが考えられます。次には「少子化対策としては失敗だとしても、子育て支援は必要だ」というところかと思います。

 しかし、それは
甘いと思います。政策立案者者をはじめとして、子育て支援の支持者達はとっくに「保育園をいくら作っても出生は増えない」と言うことに気が付いていると思います。山田昌弘さんでなくても、少子化の原因は未婚の増加だと分かっています。それは過去の厚労省などの白書・統計資料等をよく注意して見れば分かることです。
I70 完全に破綻した厚労省の少子化対策 その原点は1994年の「エンゼルプラン」にある(その1) −未婚者増加の原因は男女共同参画社会− 
I71 完全に破綻した厚労省の少子化対策 その原点は1994年の「エンゼルプラン」にある(その2) −少子化と保育所はもともと無関係−

 彼ら・彼女らは
他意あって、少子化に「便乗」して保育園の増設等をしたのです。そして、当然のこととして少子化は全く改善しませんでした。彼ら・彼女らが「子育て支援」が、「少子化対策」にはならないことに気付かないはずはありません。もし本当に気付いていないのなら大馬鹿です。気付いているのに気付かない振りをしているのなら、それは詐欺師同然であり、高級官僚、大学教授、新聞・放送記者として、いや日本人として、一人の人間として失格です。
 言うまでも無いことですが、
菅総理も当然総理・総裁として失格です。

令和3年1月20日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ