★By Natsumu★


 英国での初演以来、見たいと思っていた「On Your Toes」。その舞台がまさか日本で観られる日が来ようとは、夢にも思っていませんでした。
 来日公演が決まった時、時代は変わったものだと喜びとともに、驚きを感じた2003年。キャスティングにアダムの奥さんであるサラ・ウィルドーが決まった時には、この勢いでイレク・ムハメドフも!と思いましたが、残念ながらそれは叶いませんでした。

 さて、東京公演の皆様から送って頂いた感想を読んで楽しみに待つ事約1ヶ月。5月29日マチネと30日の両日、大阪フェスティバルホールに足を運びました。 今回キャストは一緒でしたので、2日間をまとめて書きますが、29日と30日のアダムの動きは別人のように感じました。マチネとソワレがある日と、千秋楽ではやはり違うものなのですね。

 アダムの振付けた作品を見るのは、「Six Faces」以来2回目。前作はレズ・ブラザーストーンの衣装でとても大人な雰囲気でしたが、今回はアメリカの古き良き時代MGMのミュージカルそのものの衣装で、ここからして全く違います。

 最初のサラの登場は、ガウンをさっと脱いでレオタードになるという、とても体型が目立つ演出で、そのボリュームに(ウェストエンドで見たコンタクトでは普通の洋服を来ていたので、さほど気になりませんでしたが)ちょっと衣装を考えてあげればいいのに、などと思ってしまいましたが、昔のプリマはもしかすると今より太めだったのかもと思う事に(笑)
 でも、この舞台。サラが本当に素晴らしく良いのです!それは後で語るとして、クラッシックバレエに戻るのは大変そうですが、ミュージカルでは十分な体型だと思いました。

 話しの内容は実に黄金時代のMGMミュージカル的アメリカ。音楽教師となったジュニアを演じるアダムの初登場シーンは、目立たない人という設定ですが、アダムが演じて「目立たない人」になれるはずはなく。
 恐らく客席全員の目は「目立たない」けど「注目の的」アダムに集中。小さな顔と細くて長い体と長い手足が目に映っただけで、「ああ、アダム〜っ」となってしまいますが(笑)オーラが漂っているという事はなく、ある意味非常に普通に音楽の先生をしています。

 さて、注目の声、そして歌声。
「Today!」という第一声目。ああ、案外高い(笑)というか、アダムが今迄習ってきた先生の何人かは、この静かにしろ!の意味を込めてこのイントネーションと高さで授業をしていたのかもしれませんね。
 そして歌。低音は少し辛そうな所がありますが、音程はしっかりしていて合格点!歌だけでウェストエンドのミュージカルのオーディションが受かるか?と聞かれたら、多分首を横に振りますが、ダンサーとしてはいいと思います。
 そして、生徒に隠れてこっそり踏むタップ。これが初日は今いちステップが重く、餅は餅屋でタップはタップダンサーじゃないと駄目なのかしらと、ちょっとがっかりしましたが、最終日のタップは実に華麗。最終公演は別人のようでした。

 そしてヴェラを演じるサラの登場。もう、笑いました。AMP「シンデレラ」といい、ミュージカル「コンタクト」といい、サラのコメディエンヌぶりは知っていましたが、今回よりパワーアップしていました。本当に女優です!!彼女の登場でぐっと舞台が引き締まります。サラのお陰で舞台にテンポも出て来ました。  ロシアなまりの英語も素敵!その思いきりの良さには脱帽です。そして、アダムとの夫婦漫才のような掛け合い。ベッドから思いっきりアダムを突き落とすその潔さ!夫婦だけに遠慮がないというか(笑)
 そして、アダムとサラのアクロバティック?なリフト。いつも思うのですが、この二人が踊っている時って、本当にお互いがお互いのものなんだなぁと実感させられます。何というか、全く遠慮なく、自分の一部のようにアダムがサラを抱えています(笑)
 ゼノビアのシーンでは、コンスタンティンとのダンスが最高におかしい。テクニックが確かな二人だからこそ出来る、爆笑な振付けの数々。コンスタンティン役のイヴァン・カヴァラッリも上手いですね。ロシアン英語ではなく、ラテン英語だったのは、なかなかチャーミングでした。

 今回ジュニアの相手役は2人、サラ演じるヴェラ・バロノワとアンナ=ジェーン・ケイシー演じるフランキー・フレイン。このフランキー役のアンナがまた良いのです。彼女の歌声は、実にミュージカルらしい響きを持っていて、大阪フェスティバルホールが一時、ウェストエンドの劇場になった錯覚をひきおこしてくれました。パンフレットによると、「ピアフ」で主役を演じる予定との事ですので、かなり歌唱力には定評があるのでしょう。アダムとのデュエットになると、彼女の発生が完成されているだけに、当然の事ながら、アダムの声がまだミュージカルアクター仕様にはなれていないというのが目立ち、ちょっと気の毒な感じでした。

 歌といえば、ペギー役のジリアン・ビヴァンも大人な歌をしみじみと聞かせてくれて素敵です。素敵といえば、シドニー役マシュー・ハートの歌は心がこもっていて素朴で心に残る歌声でした。
 そして、ディアギレフをイメージしたセルゲイ役ラッセル・ディクソンの歌。それまでは見事なまでのロシアなまりだったのに、歌になった途端美しい英国式英語でちょっとお茶目でした。(第一発見者は友人でした。2日目に確認しました)

   タップでは、ドーラン2世とその妻二人のステップがとてもMGMらしくタップを長年踏んでいる人という印象で良かったです。ミュージカルらしいタップというか。

 全体を通して言えるのは、アダムの素直でいい人という性格が作品に良く現れているという事。物語自体古き良き時代のアメリカで、単純明快、ハッピーエンドなので余計に素直な作品になっているのでしょうが、マシュー作品などとは実に対照的でした。

 こう言っては何ですが、マシューと違ってアダムは意地悪ではないのでしょう(笑)マシューはとってもいい人ですが、本質的にかなり意地悪だと、私は密かに思っています。あの作品のひねくれかた(笑)そして色っぽさ。
 気を引いておいて突き放す、手に入れたと思ったら逃げ出しているといった、百戦錬磨で魅力的な登場人物を生み出すマシューはアダムに比べるとかなり色々な人生経験も積んでいるように思えます。何せ、その昔クラブで僕の名前を知らない人は居なかった、みたいな発言をしていたぐらいですから。

 一方のアダムは非常に素直で素朴。ストレートな印象があり、原作がそうなのでしょうが、意地悪な人も出て来ない。それだけに振付けも「駆け引き」は無くストレートに爽やかに過ぎていってしまいます。
 という訳で、「十番街の殺人」でも、彼はもっとセクシーに見えるダンサーなのに、マシュー作品で見せるようなドキドキ感は薄く、そのテクニックと存在にはクラっときますが、「演出」が胸の高鳴りを引き出してくれる、というところまでには至らないのです。そう、「はぴひる」で指圧を興味深く実践し、お取り寄せケーキをご機嫌で食べていたアダム・クーパーのいい人ぶりがこの作品に出ているというか!!(笑)

 こんなに振り回して大丈夫なの?!といつも思うサラとのデュエット時のリフトは圧巻で、最後の「One more Time!!」も笑え、言う迄もなく、ゼノビアでのコミカルな動きと例のお尻(笑)に、「アダム」はもう本当に思う存分堪能しましたが、他の人の振付けを踊るアダムもやっぱり見たい!!!と思ったのでした。

 それにしても、アダムとサラ。本当にお互い良い伴侶に巡り会えたのだなぁと羨ましく思います。アダムは言う迄もなく、こんなに魅力的で嘱望されているダンサーは居ない!ですし、サラはこんな演技力のあるダンサーはなかなか居ない!と思います。サラはGiftを間違いなく持っています。二人とも、今のパフォーミングアーツ界で得難い存在である事は間違いないでしょう。
 サラには、ぜひマシューの「シンデレラ」でシンデレラもいいですが、リン・シーモアが演じた継母役をそのうちやって欲しいと思いました。

 笑いは山のように頂きましたが、色っぽさはさほど無く、爽やかで楽しい舞台を見せてくれたアダム。
 日本公演最終日の大阪はほぼ満員の入りで、カーテンコールではオールスタンディング。ブラボーの声が飛び、舞台ではカラフルなテープと紙吹雪が下りて来て、最終公演を無事終えたお祝いムードを盛り上げてくれました。
 字幕スーパーのスクリーンには☆が飛び、「来年、危険な関係であいましょう」の文字が。客席からの声援と鳴りやまない拍手に、喜びに満ちた出演者達の笑顔がより一層輝いて見えました。

 さて、2005年の「危険な関係」。見ているこちらがドキドキするような駆け引き、ぞくぞくとくるような魅力とクラクラくるような色気をアダム、期待していますからね!

・余談・
 舞台の後、帰り道でショーウィンドーにOYTのパンフレットを飾っているケーキ屋さんを発見。硝子越しに見ていると、中からお店の人が出て来て、フランキー役のアンナが毎日のように通ってくれて、最終日の朝全員のサイン入りパンフレットをプレゼントしてくれたそうです。皆いい人たちでした!と写真も見せてくれました。毎朝ジョギングしてるキャストも居たそうです。思わず私もタルトを買って帰りましたが、美味でした。
 Mon chou chouというお店です。フェスの帰りに皆さんもいらっしゃってはいかがですか?Hotel Ambient Dojimaの1階です。


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