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談話の効力とその継承 −村山談話、河野談話、小泉談話の効力と継承−

 4月14日のNHKニュースは「村山元首相 談話継承の立場を明確に」というタイトルで、次のように報じていました。
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NHK ニュース詳細
村山元首相 談話継承の立場を明確に
4月21日 21時22分

村山元首相 談話継承の立場を明確に

 村山元総理大臣は21日夜、東京都内で開かれた会合で、安倍総理大臣が戦後70年のことし発表する「総理大臣談話」について、過去の植民地支配と侵略に対して痛切な反省を表明した、いわゆる「村山談話」を継承する立場を明確にすべきだという考えを示しました。

 安倍総理大臣は20日、民放の番組で、戦後70年となることし発表する「総理大臣談話」について、「歴史認識において、基本的な考え方を引き継いでいくと言っている以上、これをもう一度書く必要はないだろう」と述べ、談話の作成にあたって、いわゆる「村山談話」などの個別の文言にこだわらない姿勢を示しました。

 これに関連して、村山元総理大臣は21日夜、東京都内で開かれた会合で、「安倍総理大臣は、『植民地支配』とか『侵略』ということばを使いたくないのではないかと思うし、なぜ日本だけが謝らなければならないのかという気持ちがあるのではないか」と述べました。

 そのうえで、村山氏は「諸外国は、『日本は過去に目を向けているのか、過ちを繰り返さないと言っているのは本当なのか』という疑念を持っている。ここを明確にしないと疑念は解けない」と述べ、安倍総理大臣は、「村山談話」を継承する立場を明確にすべきだという考えを示しました。
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 村山元総理は“村山談話”の継承を明確にすべきと言っていますが、どう考えるべきでしょうか。
 今までF65 「村山談話」への対応 F80 「村山談話」への対応(その2) F81 「村山談話」への対応(その3)−社民党(旧日本社会党)の惨敗と「村山談話」の継承− F83 「河野談話」の議論で考える、“談話”の効力 などで、談話の効力についていろいろ考えてきましたが、談話の拘束力について、談話は法令でも条約でもなく、いかなる意味でも、誰に対しても法的拘束力を持つものではなく、“談話”は“所詮談話に過ぎない”と考えるべきだと思います。

 この談話について、特にいわゆる村山談話と河野談話についてのみ、内閣が替わるごとに記者などから、その“継承”の有無を問われることが通例になっていて、“継承する”と答えるのが通例になっていますが、一般の法令には継承と言う制度はありません。通常期限を定めた法令以外は無期限に有効で、内閣が替わる都度、あるいは選挙で議員が改選される都度“継承”の手続きが取られることはありません。また、期限付きの法令は期限を迎えて“継承(延長)”の手続きが取られなければ、自動的に失効します。

 談話は無期限なのでしょうか、それとも期限付きで内閣が替わる都度“継承”の手続きが必要なのでしょうか。談話はこの二つに限らず、総理大臣と閣僚が発表した談話は無数にあると思いますが、“継承”手続きが取られたものは皆無だと思います。そうすると、村山、河野以外のあとの談話はすでに消滅したと考えるべきなのでしょうか。

 談話の中でも、村山談話と、小泉談話は閣議決定され、河野談話は閣議決定されていないという違いがありますが、この点はどう考えるべきなのでしょうか。

 多くの記者や政治家や外国政府が“村山談話”と“河野談話”の継承を求めているところから見ると、談話は継承手続きが必要で、それがないと談話は「過去のもの」となり、風化の危険があると考えているようです。

 それでは継承手続きとはどのようなものでしょうか。そもそも、談話が将来を拘束するものと考えられていないため、“継承”手続きも定められていません。しかし、継承すると言って、法的に継承の有効性を確保しようとするなら、発表(制定)の時と同様な手続きが必要だと思います。つまり、
閣議決定を経て発表された“談話”を継承するには、閣議決定が必要だと思います。

 しかるに、村山談話はその後内閣が替わった時に一度も
継承の閣議決定がなされていません。形式的に不備があり、継承はされていないと考えて良いと思います。一度継承が途切れてしまえば、その後は継承ではなく、復活と言うことになろうかと思いますが、復活の閣議決定もされたことがありません。そう考えると、村山談話はすでに“過去のもの”であり、その“拘束力”は後継総理の判断次第で自由にして良いと言えるのではないでしょうか。談話ごときに無期限・無条件に拘束されるのであれば、政権交代の意味がありません。
 村山内閣が
歴代屈指の無能内閣であり、彼の所属した日本社会党がその後短期間に国民に見放され、急激に衰退の道をたどったことに鑑みれば、この談話だけを特別扱いして延命させる理由がありません。

 
村山談話と小泉談話の関係についても考えてみる必要があります。どちらも閣議決定されたことと、中身は似たような内容で大差ありません。しかし、継承が問題にされるのは、いつも村山談話だけで、小泉談話は余り問題にされず継承の有無が問われたこともありません。

 このような時に、談話のもつ将来に向けての効力・拘束力が曖昧であることを考えると、
小泉談話の発表により村山談話は過去のものとなったとは考えられないでしょうか。同じテーマで後の内閣が新たな談話を発表した場合、過去の談話はその時点で過去のものになったと考えるべきだと思います。決して取り消しとか、無効という意味ではありませんがそう考えるべきだと思います。

 つまり、村山談話は小泉談話が発表された時点で過去のものとなったのであり、安倍内閣が継承しようとしても、理屈として継承はできないのです。どうしてもしたければ、
閣議で“復活”を決定するしかないと思います。

平成27年4月23日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ