〜椿姫@フォルクスオーパ〜
2004年11月02日
さて、のんびりゆっくり行動しながらフォルクスオーパへ。国立歌劇場に比べると、気の置けない劇場なので、今日の服装はいたって簡単。着替える必要もなく、スカーフをプラスする程度でいざ、出発です。
シュテファンプラッツから西駅へ。この西駅は人の量も多く、都心のスクランブル交差点のような活気があります。地下鉄と国鉄?の乗り継ぎ駅でもあり、夕方のラッシュ時間なのか、構内を歩く人の歩調は早足です。
西駅で地下鉄を乗り換え、フォルクスオーパ駅で下車。ここで降りる人は、この時間言うまでもなく劇場に向かう人がほとんどです。開演まで少し時間があったので、劇場の向い、車道を挟んだところにあるバール(雰囲気が何だかイタリア系でした)でお茶をする事に。ピッツァ、アイス、ビールなど、色々書いてある壁のメニューを見ながら、メランジュを頼み、腰掛位置の高い椅子によじ登ります。
お店は、夜がこよなく似合う雰囲気のロングで金髪、50代ぐらいのマダム一人が切り盛りしています。非常に小さなお店です。
7時半の開演に合わせ、バールで時間を潰す自分たちに、何だか「旅慣れた感」を勝手に感じながら(笑)支払いを済ませて久々のフォルクスオーパへ。
狭いエントランスを通り、チケットを提示して中へ。今日の席は左端よりの最前列。音響的には良いとは言えないでしょうが、まあ、じっくりしっかり今日は見て見ましょうと、舞台と自分の距離の近さに満足感を覚えます。と言っても立派なオケピがその間には、どんと構えているのですが。
誰一人、知る歌手が居ないのはいつもの事で。でもそれなりに楽しめるフォルクスオーパ。今日の演目はオペラ『椿姫』です。
言うまでもなく、原語で歌われるため、何と!舞台の天井近くに字幕用のスクリーンが設置されていました。日本で字幕スーパー付きには慣れてますが、ウィーンで字幕を見ようとは。国立歌劇場の『ジークフリート』の字幕にもちょっとびっくりしましたが、こんなに字幕が定番化しているとは驚きです。
ウィーンはとんだ字幕流行り?それとも私が今までフォルクスオーパで見た作品は全部ドイツ語だったので、たまたま字幕の必要がなく、ドイツ語以外は昔から字幕が定番だったのでしょうか。いずれにしても、以前よりずっと集客を考えてる雰囲気が感じられます。
満席とは言わないまでも、八割は入っている劇場で物語は始りました。舞台は白を基本とし、全体にモノトーンで統一。舞台は明るく照らされ、白昼夢のように見えなくもない。使われているのは白と黒。その2色の世界。そして、字幕は言うまでもなくドイツ語字幕。こんなに私にとって意味のない字幕は初めてです(笑)
前奏曲の演奏が始ったオケピに日本人らしき女性を見つけ、何とはなしに見つめてしまいます。国立歌劇場がウィーンフィルで男性の世界なのに対し、こちらは女性も多くさばけた感じ。見たところ多国籍なのも、今の時代のオーケストラという言葉が相応しいかもしれません。
さて、有名な悲しみと華やかさを兼ね備えたオーバチュアが終わり、いよいよ物語のスタートです。椿姫のヒロインは、言うまでもなくヴィオレッタ。美しさと女性のかわいらしさ、強さと弱さを持つヒロイン。今日の彼女はどんな人?と皆の注目が舞台に集まります。
舞台の上に置かれた長椅子に横たわった女性が体を起こしました。彼女が本日のヴィオレッタ。黒髪に白いシルクらしい衣裳。そして、それは三角帽子にシャツとパンツ。何故かピエロの格好に似ています。物憂げに体を起こした彼女が立ちあがり、客席に漸く向かい合いました。
あ、今日のヴィオレッタはプチラテン系?か弱いというより、しっかり大地を踏みしめてる足。全体に丸みを帯びています。そして、固いパンでも何でも噛めそうな発達した丈夫な下あご!ああ、丈夫そうなヴィオレッタだ!(笑)そして、華がない・・・
でも、オペラで大事なのはその歌唱力と演技力。ルックスではございません。多分 (笑)ヴィオレッタは、花からは花へをちゃんと歌ってくれれば、それが全てです。何も言いません。それ以上何を望むというのでしょう!(かなり嘘が入ってます。笑)
舞台はとにかく極めてシンプル。傾斜のついた円形の白いまわり舞台、ヴィオレッタが横たわる長椅子、そして彼女の衣裳も白。
しかし、パーティーのゲスト達は白と黒の衣裳です。コーラスでもある彼らですがダンサーも入っていているのか、スタイルのいい人も多く、なかなかスタイリッシュに決めています。そう。ウィーン風というより、どちらかと言うと、見た目だけはリヨン風といってもいいぐらいです。あくまでも舞台の空間はモノトーンで統一されていて、時折ヴィオレッタの感じている死の影を表現しています。
さて、次なる注目はヴィオレッタの相手役、アルフレードです。一体どんなテナー が登場するのか??と、心待ちにしていると、出ました。出ちゃいました(笑)ワンレン風で、口&あごひげのちっちゃいアルフレードが!もしかして、結構年配??と、近いだけにじっと見つめてしまいます。
そして、第一声目を聴いた途端、あ〜やっぱりイタリア系!と確信。ちっちゃな体に大きな声。良く伸びる声ですが、この劇場より上の劇場に行くには限界があると、とっても偉そうなことを考えてしまいました。
さて、そんな二人の「そはかの人か〜花から花へ」。椿姫の中では一番有名なアリアです。シーンと静まり返った劇場に、ヴィオレッタの声が響きます。
最近の演出の傾向として、衣裳は現代物というのが増えている為、今のヴィオレッタの服装は、白い何の変哲も無い半そで、膝下丈のワンピース。足は素足で舞台に立つ彼女は、見方によってはネグリジェ姿にみえなくもなく・・・そして、足も腕もしっかり出てて、力強さが強調されています。最近の歌手はどんな衣裳でも着ないと行けないから大変だなぁと少し同情してしまう場面ですね。そして、その声は、ちょっと線が弱いかな?という感じ。最前列で聴いている私はいいですが、後ろの方だと、ちょっとボリューム不足かもしれません。でも、全体には無難にまとまっています。が、アリアに耳を傾けていたその時、びっくりな事実が発覚しました!
歌とオケの音しかしないはずの劇場。しかし!定期的に「ゴーッ、ゴーッ」と地響きのような音がするする・・・私の空耳?いや、絶対に違う。何だろう、この「ゴーッ、ゴーッ」は。今までこのホールに3回来ていますが、初めて体験するこの「ゴーッ、ゴーッ」音。一度気になりだすと、もうだめです。この音を耳が探しちゃいます。何?何なの?この音は・・・
と、一人悩んでいて、ぴんと気付きました。これは!電車の音だ。何とフォルクスオーパの客席は、場所によって電車の音が聞えてくるんです!気付いた人は少ないと思いますが、耳を澄ますと聞えます。劇場左端前方の私の座っている席からは、確実に聞えます。実際、電車とホールの距離は極めて近いのですが、まさか音響に拘ってるに違いないホールで、外の電車の音を聞こうとは(笑)
まあ、ホールで音楽を聴いている時には、隣りの人のSwatchの秒針の音が気になって仕方ない私の耳ですから、普通の人では気にならない音なのかもしれませんが、とにかく電車の音が、電車の音が気になる!!恐るべし、路面電車(推測)。
音が聞える度に、今通った、とか、また来たとか思ってる自分に、オペラに集中しなさいよとツッコミを入れていると、アルフレードのお父さんジェルモンが登場。ウィーンのバス、バリトンはすらっと背が高くてかっこいい率が高いという私のどうでもいい(本当はどうでも良くないと思ってますが。笑)データの更なる立証数値を上げるかのごとく、スタイリッシュなお父さんが登場。しかも、若い!息子より若い。というより、親子に見えない(笑)まあ、別に見えなくてもいいと言えばいいのかもしれませんが。とにかく、このバリトンは声が良くのび、トータル的にこの劇場より上の舞台に、ステップアップしていく予感があります。
幕間の休憩で狭いエントランスへ。ここは相変わらず飲み物を買う人でごった返していました。
歌手達はちょっと地味目だけど、やっぱり椿姫は定番中の定番という感じで楽しめます。そして、劇場外の路面電車をやっぱり目で追う私。やはり、気になる!
休憩を終え、悲しい場面の連続へ。途中のバレエもやっぱり白黒の衣裳で、死神のような骸骨なども居て、死の影が刻々とヴィオレッタに近づいているのを暗示させてます。円形の回る舞台が、美しく、しかし時には怖く、効果的に人々のシルエットを生み出していきます。
決別、和解、そして死と、めまぐるしく変化する物語は、あっという間に終盤へ。ヴィオレッタの臨終のシーンです。いつ見ても長い断末魔だな、などと思ってしまうのですが(笑)見るからに元気そうな彼女が(おっと、失礼!)迫真の演技で頑張っています。横たわったままで歌を歌うのは、さぞかし難しいと思うのですが、死の床にあるヴィオレッタは、最後の力を振り絞って恋人に呼びかけます。
そして、終幕。その途端、劇場は盛大な拍手に包まれました。
コンダクター、歌手、ダンサー達が舞台でカーテンコールに答えています。劇場に居る人全てが共有する、幸せな瞬間。
ある一定のクォリティを保ちながら、市民に近しい存在であるフォルクスオーパ。 長年に渡り愛され続けている劇場。日常の延長線上にある、「ハレ」の場所。年齢層は幅広く、常連客の中に観光客が混ざって舞台を楽しんでいる空間。平日というのにほぼ満席の劇場。文化が根付くというのはこういう事だと思いながら、歓声に応える出演者達を見ていました。
楽しかった、良かったと幸せな気持ちで駅へ向かう人の波に乗り、ホームでしばし電車を待ちます。
さて、今日の夕飯です。この時間からホテル周辺に戻って食べるとなると・・・結構な時間です。恐らく11時を過ぎてからの入店となってしまいます。
お昼がお昼だっただけに、ヘビーなものは食べたくないという事になり、相談の結果!遂にマクドナルド案が出てしまいました(笑)
オペラの後にマクドナルド!極力避けたい展開でもありましたが、いつかはこうなるという予感も常にあるのが「安易」な「マクドナルド」。基本的に旅行中、マクドナルドは現地の味を楽しむチャンスを奪う危険な店という事で(そんな大変な代物ではありませんが。笑)暗黙のうちに、禁止令を出しているのですが、いかんせん。昼がヘビーすぎて、また、真夜中に近い時間帯なので、遂にご登場頂く事になってしまいました。まあ、とりあえず「温かい」食べ物と、ヨーロッパでは当たり前の常温のジュースではなく「冷たい」ドリンクは手に入ります。
それにしても、昼間の夕食への「こだわり」は何だったんだろう?と自分自身にツッコミを入れながら、シュテファンプラッツ近くの真夜中のマクドナルドへ歩いて行きました。
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