◇ 夜のシュテファン寺院です ◇

・ウィーン旅行記 2004 vol.15・

〜カフェ ディグラス 〜

2004年11月03日


 ウィーン国立歌劇場からケルントナー通りをシュテファン寺院に向かって歩いて行きます。劇場に入る前はまだぼんやりと明るかった街は、すっかり夜になっていました。オペラがはねた後と違い、バレエは上演時間が短いため、今日はまだレストランもカフェも結構開いています。
 肌寒くなった夜の中を、コートのすそを風に遊ばせながら、シュテファン寺院を越え更に奥へと歩みを進めます。
 せっかく時間があるのだから、ウィンナーシュニッツェルで有名なフィグルミューラーに行ってみようかという事になり、狭い道を入っていきます。以前友人がここで食べたシュニッツェルは、顔の大きさぐらいあったそうで、未だお腹がさほど空いていない状態でチャレンジするのは、ちょっときついかな?と思っていると、既にラストオーダーが終わっているとの事。諦めて引き返す人たちに我々も加わります。

 さて、どうしよう。という事で、思い当たったのはウィーン初日に訪れたカフェ、ディグラス。あの店は遅くまでやっているので絶対大丈夫だし、ここからも近いという事で歩きはじめます。

 相変わらずお客で賑わう店内に足を踏み入れ、ウェイターが来るのを入口でしばし待ちます。忙しく動く彼らとコンタクトを取るのはちょっと時間がかかるのですが、その間店内をチェック。ピアノの音と話し声が店内に充満しています。
 漸く訪れたスタッフに二人であると告げると、前回通されたのと同じ、奥のブースになったフロアーに案内されました。落ちつける場所です。

 どうぞと案内されたのは、前回の向かえのブース。ソファに腰かけ、ホッと一息つきます。既にこのエリアのテーブルもほぼ満席。ウェイターから英語のメニューを受け取り、しばし二人で眺めます。

 それにしても、お腹が減らない!のは当たり前。あのフレンチランチは未だしっかりと体内にその存在を残しています。という訳で、軽いものをセレクトすべく前回と同じクレープを細く切ったような具の入ったパラチンケンのスープを頼みます。そして、何か胃に優しいパンぽいものが食べたいという事で、「 皇帝のつまらないもの」という名を持つ「カイザーシュマーレン」を頼みました。何でもこのお菓子、フランツヨーゼフ1世の好物だったそうです。
 実はこれ、デザートなのですが、ホットケーキのようなパンケーキを一口サイズに切り、粉砂糖をかけた素朴なお菓子なのです。ガイドブックで見て知っていた私は、今の我々の胃袋には丁度いいだろうと考え、セレクトしてみました。ここで考え所だったのは、一つをシェアするのか、一つづつ取るのかだったのですが、価格を見て、結構な値段だったので、これは一人一皿価格ではないと判断し、一つだけ頼みました。

 さて、お馴染みのスープが運ばれてきて、相変わらずのコンソメの味に思わず
「あ〜おいしい〜。ホッとする。サイズも丁度いい(笑)」
としばしまったり。冷えた体に染み渡ります。

 人心地着いた後、バレエのパンフレットをぱらぱらとやり、ヌレエフとマーゴット・フォンテーンの写真を懐かしい思いで眺め(実際舞台を見たことなどないくせに。笑)層言えば、前回のロンドン旅行では、演劇博物館に展示されているフォンテーンのチュチュを見たなぁなどと思いだしながら、
「それにしても、溺れてたね」
「溺れてたよ。びっくりだったわ」
と、二人で再び笑いながら語ります。
「あのロットバルトは目立ってた」
「めちゃめちゃ元気だったよね!」
とも。以前ボリショイだかレニングラードだか忘れたましたが、ロシアの「白鳥の湖」を見た友達は、いろんなバージョンがあるのね〜としみじみしていました。

 さて、いよいよ注文個数があってたのか、間違ってたのか注目のカイザーシュマーレンの登場です!
 まさか、あのお皿がここに来る?あれは私達の頼んだものなの??と興味深々で見ていると、思った通り我々の目の前でウェイターが止まり、テーブルの中央にお皿を置きました。その置かれたお皿の横幅は、35cm?船形の白いお皿の上には大口(笑)で一口サイズの黄色いホットケーキのようなカステラのようなものが、山盛りにのっています。それを見た途端、友達が
「正解!大正解!こんなの二つ来たら偉いことだわ」
「・・・一つでも二人で、これは無理・・・でしょう。す、凄いよちょっと」
「しかも、粉砂糖かかってるし」
「シロップかかってるところもあるし!」
「何だか他のデザートよりちょっと高いな〜とは思ったけど、量が凄かったんだね」
という事で、たじろぎつつも、果敢に兆戦すべく、フォークを右手にいざ、攻撃開始です!白い取り皿にいくつか移して口に運んでみます。
「あ、おいしい」
「やさしい味」
「今日の胃袋にはぴったりかも」
「賢いセレクトだったよね」
と喜んだのもつかの間。取っても取っても見た目が全然変わらず、ふんだんにあるカイザーシュマーレンに、この先しばらくパンケーキ類はいらないと敗北の声が頭の中に響きはじめます。
「もうちょっと甘さ控えめなら」
「食べても、食べても無くならないねぇ」
最初はほかほかだった生地も、次第に冷めてきます。そして途中で遂にギブアップ。スープとカイザーシュマーレンだけの夕食でしたが、もう充分すぎるほど充分です。

と、そこに花売りのおじさんが登場。少し離れたブースにいる、熟年カップルに花をすすめています。50代ぐらいでしょうか。その場で男性が花を購入し、女性にプレゼント。なかなかいい光景です。ウィーンのカフェの一面を垣間見た感じで、何だか得した気分です。男性が女性に花を贈る習慣があるのって素敵ですよね。それも、大げさでなく、1輪ぐらいをデートの時にさりげなく贈る訳です。

 囁きあうように語りあうカップルがいる一方で、我々のようにカイザーシュマーレンと格闘する日本人観光客も居る。目の前の人は何だか書類を広げて仕事をしているみたいだし、その隣りでは20代ぐらいの女性グループがにぎやかにおしゃべりしながら、何やらたくさん食べてます。そして、食事をする飼い主の足下、テーブルの下で食べ終わるのを大人しく待っている犬もいる。そんな人達の間を手際がいいんだか、悪いんだかわからないウェイターが行き来して、皆の要求に応えている。カフェって何だか見ているだけで飽きません。

   いち早くカイザーシュマーレンの闘いから手を引いた私は、友人の健闘も空しく少々残ってしまったお皿をしばし眺めてから、やっぱりこれ以上は食べられないと諦めて、なかなかつかまらないウェイターとのコンタクトを開始。
 どうにか支払いを終えるまでかかった時間は十数分。ディグラスを選択し、なおかつカイザーシュマーレンを二つではなく一つだけ頼んだ我々は正解だったと自画自賛しながら、ここから歩いて5分ぐらいのホテルに帰るべく、再びシュテファン寺院に向かって歩きはじめました。


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