〜 オペラ『ドン・カルロ』その5〜
2004年11月04日
さて、初めて生の舞台で観た「ドン・カルロ」は初めてのウィーン旅行の時。 至極普通の演出で、ハンプソンとジェームス・モリスが最高!と浮かれて帰った記憶がしっかりと残っているぐらいで、それ以外は「普通のドン・カルロだったなぁ」というものでした。
という訳で、今まで奇抜、新解釈といった舞台は観てこなかった本作ですが、良し悪しは別にして、今日は非常にエキサイティング!記憶に残るプロダクションになったのは間違いありません。
インターバル後の4幕1場は、国王フェリベ2世の寝室。本当は王妃を愛している国王が、彼女と上手く行かないことを嘆き、苦しみ、一人自室で切々と自分の心境を吐露する場面。私が過去に見たホセ・ファン・ダムも、ジェームス・モリスも薄暗い部屋で一人、孤高な国王の心を歌い上げていました。心に響くアリア「彼女は私を愛したことがない」です。
王妃のお付きの女官を解雇し、カルロを逮捕した国王の冷たい、情け容赦ない面ばかりを見てきた上で、観客がはじめて国王の心に触れるシーンです。
が、しかし。今日の演出は違います。違うんです。
薄暗い部屋は夜である事を示しています。家具も何もない、ただ白い壁のみがある部屋の床に重なるように横たわる二人の男女。女性はスリップにも見えなくもない黒い露出の多いワンピース。そして、男性は白いシャツをバサっと羽織っています。
まどろみの中、体をゆっくりと起きあがらせた男性はフェリペ2世。当然のことながら彼の一番の見せ場とも言えるアリアを歌いはじめます。
あ、あれ?あれ??私の予定では、ここは一人さびしく心境を吐露する国王の重厚なアリアのはずなのに。これはどうみても・・・えっ?!どういう事?この場面は誰からも愛されていない悲劇の国王じゃなかったの?!人には自分の本当の心を語る事が出来ない壮絶なる孤独を感じさせるアリアじゃなかったの?一人で歌ってこそのアリアだと思っていたんですけど・・・
そして、お相手はというと、まあこの物語の先で明らかになる事にはなっていますが、エボリ公女です。国王とエボリが醸し出す雰囲気は、もうずっと関係が続いているというもので・・・
この二人の関係は原作に書かれている通りなのですが、ここまで分かりやすい演出というのは今回が初めて。それだけにあえて言いたい。「エボリの夢」!エボリの夢は何だったの?!と。「カルロのお嫁さんになるの。ルン♪」な演出を見せられた後、その父親と既に倦怠期に入ってるようにも見えなくない姿を見せられるとですねぇ・・・最終的に彼女が幸せになれなくても、仕方ないかと思ってしまいます(苦笑)
とても分かりやすい演出ではありますが、余り具体的に見せてもらう必要は無かったなというのが正直なところ。何というか、王の悲しみと孤独の深さがこの物語の大切な重みの一つだと思っている私としては、あえてここは一人でオーソドックスに眠れぬ夜を過ごしていて欲しかったというシーンでした。まあ、珍しい演出ではないのかもしれませんが。
さてアリアの後、王は逮捕した自分の息子の処遇を相談すべく盲目の異端審問官を呼びます。問われた彼が出した答えは、王子カルロの死刑。ですが、主犯は王子ではなくポーザ候であるとも言い、彼も処刑してしまうようにと進言するのです。
王はこの世で唯一人頼りにしているポーザ候を失う事は出来ないと反論。異端審問官は激怒し、国王たりとも教会の権威には逆らえない事をほのめかして立ち去ります。
この異端審問官。白の長髪で頭の上に小さな黒い帽子をのせ、丸い黒のサングラスに黒のロングコスチューム。それに黒い手袋をして、どこから見ても怪しいんですけど。わかりやすく、うさん臭い(笑)
そして、ポーザ候を死なせるのは困るって、そこに一番反応する父親ってどうなんでしょう?まずは自分の息子の命じゃないんでしょうか?スペイン人は分からない・・・じゃなくて、フェリペ2世が分からない(笑)
さて、いよいよ物語は終盤に入ってきました。久々のエリザベッタの登場です。
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