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・ウィーン旅行記 2004 vol.24・

〜 オペラ『ドン・カルロ』その6〜

2004年11月04日


 大切にしている宝石箱が盗まれたと狼狽したエリザベッタがフェリペ2世の所にやって来ました。実はその宝石箱。王の元に届けられていたのです。
 その中には、婚約時代に渡されたカルロの肖像画が入っていて、その絵の存在を知ったフェリペ2世は、王妃に息子と通じているのだろうと問いただします。弁明する王妃。そして、激怒する王。その激しい追求にエリザベッタは遂に気を失って倒れてしまいます。
 彼女を介護すべく呼ばれたのは、ポーザ候とエボリ公女。エボリは、王とポーザ候が立ち去ると、嫉妬の余り自分が宝石箱を盗んだこと。さらに、王と不倫の関係にあることをエリザベッタに告白してしまいます。エリザベッタはエボリ公女に国外に去るか尼寺に行くことを命じて立ち去り、ここでエボリの自分の美貌を呪い嘆くアリアが始まるのです。
 余談ですが、今日のエボリは美しいので「自分の美貌がうらめしい。私は美しいばかりに思いあがり、こんな運命になってしまった」と歌われても、納得です。時と場合によっては、ふくよか過ぎてどこから見ても結核ではない「椿姫」を見た時と同じぐらいの突っ込みを、このエボリの自分の美貌を嘆くアリアで入れてしまうのですが(笑)今日は気持ち良く頷いて聞く事が出来ました。

 と、一気に物語を書いてみましたが、どうでしょう。こう書いてみると、「 ドン・カルロ」ってかなりドロドロです(笑)オペラって実に人間味溢れてます。というか、この展開は昼ドラでもいけるかも〜と思わなくもないのですが!こういう感情のぶつかり合いというか、感情の起伏の激しさがまたオペラの醍醐味なのですよね。何せ、思いのたけを音楽にのせて歌い上げるのですから、出て来る人たちの感情が低調な訳がない!

さて、場面は移り、逮捕されてしまったカルロを牢獄に訪ねるポーザ候が登場。彼はカルロに近く釈放されるとカルロに約束します。何故なら、カルロの罪を自分がかぶったからだとポーザ候は語ります。疑惑の書類は全て自分の身辺から発見されるようにして来たと話すポーザ候。
 と、そこに銃声が響きポーザ候が床に崩れ落ちてしまうのです。瀕死の状態の中、ポーザ候はカルロ王子にフランドルを解放するという夢の実現かなえて欲しいと告げ、エリザベッタ王妃が全ての手はずを了解していること、彼女が明晩サン・ジュスト修道院でドン・カルロを待っていることを教えて息絶えるのです。

と、このシーンになるといつも思うのは、何故カルロの為にポーザ候が死んでしまうのかという事!あっけなく死んでしまうポーザ候はいつも魅力的な歌手が演じ、身代わりになってくれたポーザ候を見取るカルロは、いつも平均点的なテナーが演じているだけに、逆にして欲しいと完全に物語を無視した思いを抱いてしまうのです。
 何でこんないい人が、カルロごときの為に(王子だという事を完全に忘れています)命を落としてしまうのか!と毎回悔しく思うシーンです。きっと見ている人のほとんどがそう思っているに違い無い。だって、ポーザ候は人気のある役なのです。カーテンコールだってカルロ以上に盛り上がりを見せる事もしばしばですから。
 余談ですが、私。トーマス・ハンプソンがポーザ候を演じていた時などは、死んでしまったらもう歌いに出て来る事はありえませんから、彼の歌がもうこれで聴けない事に泣きそうになってしまった記憶があります(笑)。

 さて、ポーザ候という大きな犠牲を出した監獄にフェリペ2世が登場。息子であるカルロを赦し、釈放すると告げます。カルロは王にポーザ候の無実を伝え、自分の為に彼が命を落とした事を告白。二人は唯一の誠実な友であったポーザ候の死を嘆き悲しみます。
 と、その時カルロを監獄から解放させる為、エボリが煽動して立ち上がらせた民衆が地下牢になだれ込んで来ます。民衆にカルロを既に解放した事を告げるフェリペ2世。そこに宗教裁判官が現れ、彼等を威嚇、勢いを削いでいきます。彼は民衆に、フェリペ2世に従うようにと告げ、事態の沈静化に成功するのです。

 そして第5幕。ポーザ候が死の直前に告げた言葉に従い、カルロはエリザベッタに会うべくサン・ジュスト修道院に現れます。
 愛し合う二人ですが、エリザベッタはカルロにこの世での遠永の別れを告げるのです。二人の愛の情熱をフランドル救済の為に使って欲しいと訴えるエリザベッタ。カルロもそれに同意し、命をかけてフランドルを救うと約束します。そして、二人は天国で愛を成就させようと固く誓い、二人は別れを決意します。
 そこに、フェリペ2世と宗教裁判所長が現れ、二人の逮捕に踏み切りますが、そこで突然、カルロ五世(カルロの祖父)の墓の扉が開き、中から修道僧の姿をしたカルロ五世の亡霊が現れ、ドン・カルロを墓の中に引きずり込んでしまいました。エリザベッタは失神し、人々は恐怖に凍りついて終幕。

 さて、ここでこれもまたいつも思うのですが、幽霊の存在があってこその「ドン・カルロ」というか、結構この話し重厚なのに奇想天外というか、何だか不思議な話しなのです。私に言わせれば、扱いに困る王子を祖父であるカルロ5世の幽霊があの世に引っ張っていってしまうという、神隠し、幽霊落ちみたいな感じです。  この物語は、極めて宗教的であると同時に、愛憎劇でもあり、政治的色合いが強く、リアルなのかと思うと幽霊も出て来るし、何だか混沌としているのです。しかし、非常に人気は高く、魅力的な歌も多いし、ポーザ候は人気者だし(笑)比較的良く上演される演目です。(日本でなかなか上演されないのは、主役級の歌手を最低6人揃えないと出来ない為、引っ越し公演などでは予算の関係などで難しいという理由があるそうです)
 今回は「エボリの夢」や囚人をエントランスからひっぱって来たりといった、「舞台外演出」など、更に混沌の度合いが増し、そして5時間という長丁場の上に、途中でポーザ候も死んじゃったし、終幕まで息切れしなかったかというと、正直なところ、かなり息切れしてましたが(笑)とにかく、贅沢な贅沢な5時間が今、終わりました。

 カーテンコールでは思った思った通りポーザ候で沸き、エボリ沸き、全体に大盛況のうちに夢の一時が終了。私の中ではBo Skovhusが収穫でした。これで今回の旅で計画しているオペラは全て終了。残すはミュージカル「エリザベート」のみです。

 夕方5時に入って10時に終わるこの長丁場。演じる方も観る方も体力勝負だと思いつつ、イタリアンが食べたいとすっかり現実に戻って夜の街に歩き出しました。


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