◇ シュタイラーエッグです ◇

・ウィーン旅行記 2004 vol.26・

〜 シュタイラーエッグ 〜

2004年11月05日


 緑のテントとガラスのドア。角地に立つレストランの入口はシンプルです。 ドアを開けるとスタッフが出迎えてくれます。既に30分ぐらいの遅刻です。
 入口でまずコートを預けながら、スタッフに、「道に迷ってしまったんです。予約時間に遅れてごめんなさい」と告げると「いえいえ、気になさらないで下さい。どうぞこちらへ」と店の中へ誘われます。

案内された場所は、エントランスから短いステップを下りた左、角の席で落着ける空間。店内が良く見渡せませます。
 正面に見えるのはテラス席で、気持ちがいい程度の明るい自然光の中、10人ぐらいのグループが食事をしています。私たちの席の左手にはオープンな個室があり、そこに置かれたテープルでは美しいブロンドの若い女性と男性が食事をしていました。
 店内はびっくりするほどには大きくなく、適度に照明が押さえられており、非常に落着いた雰囲気です。レストランでありながらサロンのようでもあり、お店のようでありながら個人の家のようでもある。そんな感じです。

 先ほど席に案内してくれた50がらみぐらいの男性はホールスタッフの責任者らしく、全体を良く把握し、若いスタッフたちに指示を与えています。
 テーブルに着いて少し落着いた頃、メニューを持って先ほどの男性が我々のテーブルにやってきました。彼の後ろには、ドリンクのワゴンを押したスタッフがついて来ています。豊富に並べられたドリンクのワゴンは、飲めれば素晴らしいラインナップなのかもしれません。頼めばその場でカクテルも作ってくれるのでしょう。

 先に食前酒などはいかがですか?と聞かれたので、二人ともアルコールは飲めないので、オレンジジュースを下さいと告げます。すると、その場でフレッシュオレンジを手早く絞り、グラスが目の前に置かれました。
 渡された英語のメニューを眺めながら、たった今絞ったばかりのオレンジジュースに口をつけます。言うまでもなく、フレッシュです。

   日本のように料理が決まったコースというのは無く、各カテゴリーから好きな料理をチョイスしていくのですが、これがまたなかなか悩ましい。自分の胃袋と品数を天秤にかけながら考えます。
 しかし、結局またまたスープにこだわった結果、何故か豚足(本当に豚足って書いてるんです。もちろん漢字でなく英語で。笑)のスープに決定。というか、スープが何故か豚足しかなかったという・・・
 サラダ仕立ての前菜、スープ、そしてメインに骨付きの子羊をセレクト。今回もやはり山の国だけに魚は避けて通ります。

 オーダーを告げてからほどなくして、まずはコベルト(小さな前菜)が運ばれました。白い長方形の器に並んでいる少量の前菜たち。ピンチョス風というか、一口大の前菜のほかに、オニオンスープが小さな筒状の陶器に入っています。
「あ、これおいしい」
「おいしいはいいけど、見た目より量があるよね?」
やはりウィーン。少量に見えても本当に少量というのは、ありえません。
「スープ頼んで失敗だったかも」
私たちの胃袋では、このコヴェルトのスープで充分。既にセレクトミスだ〜と失敗感が自分の胃の辺りから沸き起こってきます。小さなスプーンですくいながらオニオンスープを制覇する頃には、充分堪能した感が漂いはじめてしまいました。。。

そうこうしているうちに、パンのワゴンが到着。豊富な種類の中から説明を聞き、2種類ずつセレクトします。これもまた、ワゴンの上、目の前でカットしてくれるのです。続く前菜もホテルのフレンチよりは少量に思えますが、食べるとしっかりボリュームがあります。そして味は、全体に何故か甘めでフルーティー。確かにおいしいです。

 さて、いよいよ豚足です。豚足って言っても、まあ、こんなお店だからダシを取った、ぐらいのものだろうと思いつつ、運ばれた器を覗き込むと。。。
「あ、本当に豚足だ」
「豚足だね」
「これはまごうことなき、ブタの足。原形とどめてるよ」
「しかも、かなり濃厚なスープみたいだけど?」
ううう。表面の油がキラキラというより、ちょっとギラギラ気味に輝いています。 ちょっとドキドキしながらスプーンですくい、口に運びます。
「ああ〜 すっごい濃厚」
「濃厚だね。凄いね。ちょっとこってり系」
「でもコラーゲンって感じがする」
「女性に人気とか、そういう感じだよね。でも濃厚。」
そして、言うまでもなく、濃厚だろうが何だろうが、量はたっぷりあるのです。 濃厚だから思わずパンを食べ、パンを食べたらお腹が膨れる。でもお腹が膨れたら最後まで辿り着けない気がするからスープだけと思い飲んでみるのだけれど、やっぱり気づくとパンを食べている・・・という悪循環に陥りつつやっぱり「豚足」の文字で躊躇する賢明さが欲しかったと激しく後悔(苦笑)
後にシュタイラーエッグに行った話しをして、思い出すのはきっとのこの「ブタの足」に違いない・・・それぐらいのインパクトを感じながらどうにか「豚」な「骨」、「豚」な「足」から脱出!

 いや〜濃厚であったと話しながら店内に目をやると、先ほど登場したのとはまた 別のワゴンを発見。我々のテーブルに来たのは、ドリンクとパン。他にチーズ、デザート、そして葉巻のワゴンもやはり存在していました。葉巻、シガー関係のワゴンを見るのはこれで2軒目です。正式なお店にはつきものなのでしょう。未だ分煙りが定着していない国です。

 次に漸くメインが登場。美味ですが、子羊もなかなか濃厚です。というより 既にさっきの「ブタ」で充分出来あがっているところにメイン。これは、やっぱり胃袋の容量負けと申しましょうか。また、この店の味は全体にやはり甘い。嫌な甘味では決してないのですが、野菜の甘味などよりもう少し濃厚なフルーツ甘味なのです。これがまったりと口の中に最初は「広がる」と感じるのですが、そのうちそれは「居座ってる」に変わり、その後量が多いだけに「くどい」に変化してしまうのです。

 どうにかこうにかオーダーした料理を食べ進み、今回もまたやっとのことで食事を制覇!
いやはや。道に迷ったところから始り、店内に入ってからも今日はなかなかの苦戦。大変な闘いであったことよ。って、いや、別に闘いに来たわけではないのですが (笑)

 どうにか食べきったよ!と思った時、思った通りチーズのワゴンがこちらに向かって来ました。チーズ。そうチーズ。フルコースの場合、メインの後で必ず登場する魅力的なチーズたち。その素材、熟成度により変化する素敵な食材。でも、でも今日は!これ以上は無理でございます!とばかり、考える間もなくありがたくお断り。
「デザートはいかがですか?」
とやはり思った通りの質問を我々に投げかけるスタッフ。この上にデザートが入る場所なんて、有るわけございませんので、
「もうお腹がいっぱいで。とてもおいしいお料理でした」
とにこやかに告げ、やんわりと断ります。
「コーヒーはいかがですか?」
と、ここで先日のフレンチレストランでのメランジェの記憶が甦り・・・この店のメランジュも試してみたいかも、と思い始めるこの怖さ。そこで思わず
「では、メランジュお願いします」
ああ、やっぱり頼んでしまった・・・

 期待したより普通だった(笑)メランジュをどうにか飲み干し、友人がレストルームへ。とそこに、例のチーフらしき男性が登場。いかにも責任者という風格があります。
 そんな彼の手には小さな器が二つ。え?何も頼んでいないのに?微笑みながら私の横に立ち
「シェフからのプレゼントです。チーズとセサミのデザートです。どうぞ」
白い器に入っていたのは、丸いチーズ球と申しましょうか。全体に黒いゴマがついている球体がかわいらしく入っていました。
「まあ、ありがとうございます!」
とにこやかにお礼をいい、あんなにデザートはいらないと言っていたのにプレゼントと言われて食べない訳にはいかないと、スプーンを片手に再び格闘・・・小さいとはいえど、どうしてどうして。実は小さくないじゃないか!というチーズゴ マボール。良い味のチーズですが、チーズだけになかなか濃厚で、これは手ごわい感じ。そこに友達が帰ってきました。
「え?何々?こんなの頼んでないよね?」
「シェフからのプレゼントだって。中はチーズなの」
私と同じくもう何も入らないと言っていた友達も果敢に挑戦。ああ、凄い仕上げに なってしまいました。これで人から「シュタイラーエッグはどうだった?」と聞かれたら、迷うことなく「豚足とチーズ球!」と訳の分からない答えをしてしまうことが、たった今決定致しました。

 もう今日は一日これ以上何も入らないんじゃないかという状態で、あたたかい心使いにお礼を言い、支払いを済ませてクロークへ。どうにか辿りつけたし、食事も堪能したし、結果的にパーフェクトだったと満足してコートを受取り外へ。ずしりと重い胃袋を抱えた状態で、今度は間違えようもない帰りの路面電車を待ちます。ほどなくしてやってきた電車に乗り、再びリングへ向けて移動を始めました。


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