〜カフェ ツェントラル〜オペラ「ジークフリート」〜
2004年11月01日
ウィーンのカフェで、私の中では一番観光地化されているカフェ、ツェントラル。入口にはその昔このカフェの常連だった詩人、アルテンベルグの等身大木製彫刻が置かれています。
高い天井に音が反響して、余計にざわざわ、がやがやしているように聞こえる店内の入口に立ち、席を案内してくれる事を期待してウェイターを眺めていますが、気づく様子は全くない。気づいてもらう前に、後から入ってきた人達が私たちを追い越し、自ら空いてるテーブルを探しはじめました。
負けてはいられない!と我々も、人だらけで空いてる席があるとは思えないカフェという名の人の海に乗りこみます。でも、空いている席は本当になく、ゲームのように難しい。
どんどん奥に入りこみ、漸く小さな、でも二人はどうにか座れるテーブルを発見。急いで近づきますが、椅子はあいにく1つだけ。一つ、大人数の所に持ち去られたようです。
すると、漸くウィイターが登場。ころっと太った、目がくりくりっとして口ひげをはやした、いかにも海外もののドラマに出てきそうな中年のウェイターのおじさんです。ちょっと待ってて、と急いでどこかから椅子を一つ調達。そして、テーブルの上のカップも片付け、さあどうぞ、とにっこり。漸くテーブルに着くことが出来ました。
数年前、初めてツェントラルを訪れた時は、ここでお昼とケーキを食べました。その時は3人で来たので、誰がどの料理を頼んだのかは忘れてしまったのですが(味見をしただけだったのか、本当に食べていたのか今や不明)スープと牛肉のグラーシュ(ビーフシチュー)がおいしかった記憶があります。
繰り返すようですが、オーストリアは本当にスープがおいしいのです。ザルツ
ブルグのヘルツルという店で食べた日本語に訳すと「昔ながらのウィーンのスープ」が忘れられない!ここで食べたターフェルシュピッツも絶品でしたが、とにかく、それ以来「昔ながらの」とついたウィーン流スープがあると、思わず頼んでしまうのです。
一体どんなスープなのかというと、店によって違うのですが、野菜と牛肉、クヌーデル(おだんご)やパラチンケン(卵多めのクレープみたいなもの)の千切りなどが入った具沢山のコンソメスープ。
という訳で、ここはやはり迷うことなく「昔ながらのウィーンスープ」をセレクト。これにパンでも充分満足ですが、更に「牛肉のゼリー寄せサラダ」を頼むことに。これは友達とシェアします。
先ほどの、絵に描いたような(美しいという意味ではない。笑)ポワロ系ウェイターにオーダーします。と、ここでガス抜きのミネラルウォーターが無いという事が発覚。メニューにエビアンがあるけどと言うと、売りきれたとの答え。ううううーん。仕方なくオレンジジュースを注文します。
ほどなくして運ばれてきたのは、オレンジジュース。100%の絞りたてで、オレンジの粒が入っています。テーブルに置かれたバケットの中で、白い布に包まれているのはパン4種。やっぱりお気に入りのカイザーゼンメルをセレクト。
さて、注目のスープがやってきました。思った通り具沢山のスープです。中に浮いてるクヌーデルは、何が入っているのかはっきりわかりませんが、口に入れて噛み締めるごとにおいしさがわかってきます。うーん。満足!パラチンケンも、野菜もどれも優しい味です。
薄い茶色をしたスープも、後味が日本のコンソメとは明かに違います。どちらがいいというのではなく、残り方が違うのです。日本の味しか受けつけない人だと、ちょっと苦手かもしれませんが、慣れてしまうと、これがまた味わいです。
クリーム系のスープを頼んだ友人も満足げにカップに入ったスープを飲んでいます。と、その時、
「あ、今エビアンが大量に後ろを通って行った!」
見るとビン入りエビアンが積上げられた状態で通っていました。ああ、もう少し来るのが遅ければ・・・
次に来たのはビーフのゼリー寄せサラダです。思った通りテリーヌ型にサイコロ状に切ったビーフと色鮮やかな野菜がきれいにゼリーで寄せられています。そして、それは我々向きな事に2枚ついていました。シェアで正解。レッドオニオンやベビーリーフ、小さく刻まれたパプリカと一緒に口に運びます。
丁度良い量で、遅めのランチ&早目のディナーが終了。この中途半端な時間での食事は、午後5時から始るオペラ「ジークフリート」のためです。
定番のように、「支払うのに担当ウェイターがなかなか捕まらず苦労する」を経て外へ。夕方から5時間かけて行われるオペラへの用意の為、一路ホテルに向かいました。
たった一駅でも定期があるなら使いましょうと乗った地下鉄のホームの壁にあったスクリーンに映し出された天気予報によると、明日は曇り。この後、天気はずっと曇りで太陽が見えた事はほとんどありませんでした。
シュテファンプラッツ駅で下車し、エスカレーターを上がると見なれたシュテファン寺院が堂々と姿をあらわします。ケルントナー通りを横切り、グラーベンに折れて一つ目の角を曲がると、我々の泊まっているノイヤーマルクトの筋になります。この角に、昨日から気になっている、露天商の焼き栗屋さんがあります。常に2、3人の列が出来てるこの焼き栗。気になる〜っ!という訳で、6コ入り(確か1.2ユーロ)を一つ買って見ることに。三角形に作られた白い小さな紙袋にざらざらっと栗を入れてはいっと渡されます。
あまりの早さに、ちゃんと数を数えてるとは思えず、多くはいってないかとちょっと期待してしまいましたが(笑)、さすが、ちゃんと6個でした。
オーネとかかれたミネラルウォーター(ガス無しの意味)をジューススタンドで買い、焼き栗を手にホテルの部屋へ。早速二人で味見です。
小さな栗は、自然にはぜて出来たらしい割れ目が入っています。そこから皮をむいて、渋皮を取り除き口の中へ。と、これが、
「おいし〜いっ!!」
日本でいう焼き芋の、あの香ばしさと栗の甘味があいまって、かなり幸せ!その昔、ラシャーヌというコミックで、主人公のいとこが「パリの焼き栗が恋しい」とつぶやくシーンがありましたが(このコミック知ってる人、かなりマニアックです・・・)確かに、この味は恋しくなります。
皆が並んで買っているのが良くわかると話しながら、一人3個なんてあっという間になくなってしまいました。
さて、いよいよです。旅の目的、舞台三昧の日々の幕開けです。初日の今日は国立歌劇場で初ワーグナー、初「指輪」です。5時開演の5時間にも及ぶ舞台を見に、ホテルから徒歩10分弱のオペラ座へ向けて出発しました。
ワーグナーの「ニーベルングの指輪」は壮大な楽劇で、「ワルキューレ」「ジークフリート」「神々の黄昏」の3つの話しで構成されています。そして、この話しの前にはそもそものことの起りを描いた「ラインの黄金」が入るので実質4つの物語で語られるのです。そして、その一つ一つがとにかく長い!まあ、日本の歌舞伎の仮名手本忠臣蔵もまともに見たら、何日にも及ぶ長編(しかも、四谷怪談までその系列の物語というぐらい、あちこち繋がっているのです!)なので、指輪が特別という事はないのですが、でもとにかく長い。
今回我々が見る「ジークフリート」は、2つめの話しなので、その前の物語を知らないと全くわからないで5時間座ってることになるので、とにかく事前にジークフリートに至るまでの物語を日本語で読み、バイロイト音楽祭でバレン・ボエムが振った時の「ジークフリート」をビデオで見てからこの日を迎えました。
指輪は、ワーグナーにとってライフワークと言える作品で、これに費やした年月はなんと20年以上とか。もちろん「ロード・オブ・ザ・リング」を彷彿とさせるところもあります。まあ、ワーグナーの方がトールキンより先ですし、もともとヨーロッパには指輪伝説があってこの物語が出来ているのでしょうから、どっちがどうという事はないのですが。
ここで指輪4部作のあらすじを長々と語るなんて事はしませんが、とにかく神々の話しなので人間の常識は関係無い。表面的なところだけみると、不倫、近親相姦などなかなか波瀾多き話しなのです。
ギリシャ神話でいうゼウス的な神ヴォータンの子として生まれた男女の双子が結ばれて生まれたのがジークフリート。彼の父は死に、母は炎の中で長い眠りについているため、ジークフリートは自分の両親を知らず、孤児同然でニーベルング族の鍛冶屋、ミーメに育てられます。
森の中で育つジークフリートは動物は親子で皆にてるのに、自分がミーメに似てないことから彼は親ではないと悟っているという所から話しは始ります。ざくっと説明すると、彼は選ばれし者しか持つ事が出来ない最強の剣を手に入れ、ラインの黄金で作られた強大な力を持つ「指輪」と「隠頭巾」も手中に治め、自分の母親であるブリュンヒルデを眠りから目覚めさせ、彼女を切望し結ばれて終わるのです。神の血が流れているといわれても、母親と息子が結婚するのはなぁ・・・などと思ってはいけません(笑)
でも、この物語を一人で見るためだけに劇場をつくり、城を創り続けたルートヴィッヒはかなりキてたというのは実感を持って納得してしまいましたが。
カラヤン広場から入ってすぐのクロークにコートをあずけ、着飾った男女で溢れたオペラ座の階段の方向に歩いて行きます。年齢層は幅広く、服装も様々ですが、それぞれが思い思いのおしゃれをしています。
今日の席は1階土間席の後方。舞台全体が見渡せ、音響的にも優れている席です。フラットだと思われる前方より、段差のある後方1階席は我々向き。チケットを見せ、席を案内してくれたスタッフからパンフレットを購入し着席。ここで心配なのは、周囲の人達の座高の高さ!幸い斜め前に小学生ぐらいの男の子(滅多にいない子供が来ていました)が座り、結構いい感じです。
席について真っ先に思ったのは、思ったより小さい劇場だったという事。今回で3度目になるのですが、土間席に座ったのは初めてで、見え方が随分違うと実感します。上から覗き見ると大きいオーケストラピットも1階に下りるとさほど大きいとは思えません。
そして画期的だと思ったのは、字幕用の液晶画面。土間席では各椅子背中に小さな長方形の赤い板がついています。これが字幕用の液晶画面になっているのです。利用方法は簡単。前の座席の人の背もたれについている字幕液晶画面を自分が見やすい角度に調節し、ついているボタンを押します。出てくる原語はドイツ語と英語。今日はドイツ語の作品なので、字幕は英語だけ。こんなシステム前にはなかったはず!と世界に広がるオペラ字幕にちょっと驚き。観光に力を入れている現れでしょうか。オペラファンの育成の意味もあるのでしょう。俄か作りではない常設字幕にウィーン国立歌劇場の考え方を見たような気がしました。
劇場内が暗くなり、コンダクターが登場。いよいよです。この劇場のオーケストラはウィーンフィル。最初に聴いた時には、未だかつて出会ったことの無い純度の高い輝きを持った音に衝撃がはしったものです。今日はどんな音を聴かせてくれるのか。いやがおうにも期待が高まります。そして、前奏曲が始りました。
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