◇ レストラン「コルソー」です ◇

・ウィーン旅行記 2004 vol.7・

〜コルソー〜

2004年11月02日


 先ほど通った道に戻り、コルソーのドアを開けると、まずはクロークが右手に現れました。係の50代ぐらいの女性にコートを預けます。小さめの入り口を通ると、ギャルソン達が一段低くなったフロアーに立っていました。
 予約をしている事を告げると、細長い形をした店内の左奥、壁側の落ち着いた席に案内されます。中央のテーブルは普通にセッティングされているだけですが、案内された壁際のテーブルには隣との間に美しいパーティションがあり落ち着いた雰囲気。壁は鏡になっていて、店内を広く見せる役割を果たしています。シャンデリアと琥珀にミルクを入れたような色をした変形した螺旋のような不思議な柱。随所にある金色の装飾品。しかし、全体としては成金主義には見えない落ち着き。何とも歴史を感じます。

 店内のゲストは私達の他にまだ一組しか来ていません。平日ですし、お昼はまだ始まったばかり。店内の中央の席に座った先客は、ドイツ語を話していますが、どうやら旅行中の若い夫婦のようです。セーターとジーンズという姿で、足下にはリュックが。そしてテーブルにはガイドブック。一目見て観光客というのが分かる二人です。
 我々をテーブルに案内してくれたギャルソンがやって来てメニューの説明を始めます。彼を一言で表すなら、ベアー。180cmを超えるであろう背丈、淡い茶色の短く刈り込まれた髪、ぽっちゃりした顔、シャツの上には淡いモスグリーンがかったベージュ系のベストをつけ、その下には長いエプロンを巻いています。この姿がここの制服です。ギャルソンの年齢層は幅広く、今話している人は年長者、もっと若い二十歳そこそこのギャルソン達は同じ格好でも少年ぽさが出ていてなかなかキュートです。
 今日のランチはスープ、牛肉のグラーシュ(シチュー)、デザートとの事。それ以外にアラカルト、コースランチがあります。それは渡されたメニューに書いていました。まずはワゴンがやって来て食前酒を聞かれます。二人とも飲めないので、オレンジジュースを注文。絞りたての果肉入りフレッシュオレンジがほどなくして運ばれてきました。
 メニューを眺め、コースはとてもじゃないけど我々の胃袋では制覇出来ないという結論になり、3品メニューの今日のランチを選びました。

 料理が来るのを待つ間、何とはなしに先客の二人を眺めていると、彼等も私達と同じランチを頼んでいるようです。先客だけに、もうシチューまで来ていました。そのシチューのサーブがなかなか面白い。まずサーブ用のテーブルが置かれ、銅鍋が運ばれてきます。そして、大皿が二枚設置され、そこで給仕長という感じのえんび服の年配のおじい様が登場。鍋のふたを開け、おもむろにサーブを始めました。その量たるや!何も無かった白い皿があっという間に肉の小山に変身。やっぱり今日のランチで正解だった・・・と思ったのは言う迄もありません。

 さて、まず運ばれて来たのはシェフからの前菜。サーモンを細かく切り、ドレッシングであえて円形に小さく盛り付けたものです。
 さてさて、どれぐらいの腕前なのか楽しみです。小さなフォークを持ち、早速味見。うーん。可もなく不可もなく…びっくりするほどサーモンが美味しい!という事はなく、まあ無難かなという程度。というより、山の国オーストリアで島国日本から来た我々がびっくりするような新鮮で美味しい魚に出会えるとは思わないので、こんなものかなぁという感じです。

 パンの為のバターを給仕に来たので、エヴィアンを注文。ところで、このバター。パン皿の中央に置いてくれるのですが、これがまあ大きい事、大きい事。料理に使うの?という立方体のバターを一人一つづつサーブしてくれました。この国の人たちって一体・・・

 続くスープはコンソメベースで例のお団子入り。一口食べて、おおっ!これは!!やっぱりこの国はコンソメスープの国です。中に入っているクヌーデルがまた味わい深い。噛む度に色々な味がして来て幸せに包まれます。昨日のツェントラルとはまた違った味わいです。
 一見小さな器に見えますが、これがなかなか深く飲み終える頃にはお腹がかなり出来ていました。

 小さなカイザーゼンメル(パン)を食べながら、再び店内ウォッチング。例の夫婦はギャルソンから名刺を貰い、何故か持ち歩いている(!)名刺フォルダーにしっかりファイル。なかなか面白い人たちです。
 お昼も12時半を過ぎ、徐々にこのレストランの馴染みのゲストも増えてきました。入店時に親しくギャルソン、給仕長(勝手に決定!)と握手し挨拶を交わしています。さすがにその人たちはスーツ姿です。

   さて、いよいよメインディッシュ。グラーシュの登場です。サーブ用の机、大皿、銅鍋と先ほどと同じセットが我々の前に登場します。サーブは最初に案内してくれたベアーなギャルソンです。二つの皿に牛肉をサーブしていきます。そして、最後に付け合わせのポテトを添えて。いよいよ私の前にそのお皿が運ばれてきました。大きな肉の固まりが4、5個。グラムでいうと、絶対に250gは下らない…
 いざ!とばかりにナイフとフォークでその山を崩していきます。まず一口目。
「おいしい!」と友達。濃厚な味が口の中に広がっていきます。肉も柔らかすぎず固すぎず。これぞグラーシュという感じ。ところが…濃厚な味がいつまでたっても無くならない!添えのポテトもバターで濃厚に仕上がっています。うーん。サラダが欲しいけど、これ以上入る余裕はお腹に無い。そしてまたビーフに戻ります。ああ、濃厚。美味しいけど濃厚。ボリュームも凄い。果敢に挑戦するも、なかなか切り崩せる相手ではなく…

 最初は美味しく、最後は必死でどうにかグラーシュを完食。しばらく見たくない気分です。はぁ…となっている所に次のデザートが登場しました。

 運ばれて来たのは、カスタードプティング。カットされた果物が添えられています。
目の前に置かれたお皿の上にドーンと座っているプディングを見て、思わず
「これ、相当大きくない?」
「日本だったら絶対この半分のサイズだと思うよ」
と二人ため息混じりの会話を交わします。思いきってスプーンを手にプリンに挑戦。
「あ、甘い・・・」
「こ、これは・・・」
甘さ控えめという言葉はここにはなく、しっかり濃厚に甘いプリンが我々を待ち構えていました。横に添えられたリンゴ、パパイヤなどの果物はあっと言う間に無くなり、残るのは主張の激しい味のプリンだけ。これでもう少し甘さ控えめなら食べやすいのに。

 約2時間の食との格闘を終え、もうしばらくグラーシュもプリンも会わなくていいという感想を持ってコルソーを後に。日本人の胃袋には、やはりお昼のランチが限界だと認識。3皿のコースでこれなので、フルコースは絶対に無理です。

 ウィーンでも指折りのレストランコルソー。その実力とその量を垣間見る事が出来てなかなか楽しい一時でした。
 このレストランには二種類のゲストが居ます。観光客と昔ながらのハイクラスな顧客です。店内の混み具合からして、平日のランチなので空いていたのかもしれませんが、やはりこの店にとって観光客は必要なゲストと言えるでしょう。彼らにとって観光客は、店を維持していく為には受け入れざるを得ない人たちです。これはオペラ座にも言える事だと思います。
 維持していく為には観光客を受け入れなければならない。その認識が全体に広がっているような気がしました。観光客に対して嫌な顔を押さえているという意味ではなく、共存を受け入れているという印象を受けました。
 料理に関していえば、とりあえずオーストリアはやはりスープの国、山の国という事と、素朴な料理が主流で、その料理を堪能するには日本人離れした胃袋が必要だという事が分かりました(笑)

 もう何も入らないという満腹状態で再びウィーン街へ。3時からは楽しみにしていたウィーン国立歌劇場ガイドツアーです。コルソーから国立歌劇場は目と鼻の先。ゆっくりと移動を始めました。


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