Sarah Wildor Interview
  by Jennifer Fisher(L.A.Times) 1997.5.20

 イギリス人バレリーナ、サラ・ウィルドーは24時間もの旅の後にしては、元気そうに見えた。ロイヤルバレエ団海外公演の一員として、彼女は昨夜、金曜日の夜遅くロンドンからアメリカにやって来た。2.3日後にはオレンジ・カウンティー・パフォーミング・アーツ・センターでの6日間の公演が控えている。

 彼女は恋人のアダム・クーパー―元ロイヤル・バレエ団員で、現在はマシュー・ボーンのヒット作「白鳥の湖」に出演中。彼はL.A.での舞台の後、駆け付けた―と再開した後、少し睡眠をとった。その後、センター周辺をかなり歩き回って朝食をとろうと努力したが適当な店が見つからず、テークアウトのマフィンであきらめたらしい。

 そして今、サラはがっかりした顔をしているカメラマンと対面している。彼は彼女がチュチュを着て現れ、カメラの前で少しまわってみてくれるだろうと期待していたのだ。
「まぁ、ごめんなさい。まだコスチュームが届いていないの」
彼女は明るい表情でカメラマンをじっと見つめながらそう愛想良く答え、彼の機嫌を直した。
その時のサラは洞察力があり、思いやりのある女性に見えた。
「この状態の私でいいのかしら?」それで良しとしたらしく、カメラマンは写真を撮った。
 撮影後、センターのオフィスから命の栄養剤であるコーヒーを持ってきて、サラと私は腰をかけた。そして彼女は笑いながらこう白状した。

「本当は彼にこう言いたかったわ。『何?こんな最悪の状態、私にだって考えられなかったんだから、あなたは冗談でも言うべきよ』ってね」

サラ・ウィルドーは現在25歳。主役を踊っても定評のあるファースト・ソリストであり、ロイヤルの人気の鍵を握るメンバーである。
 彼女の格好はカジュアルだが―薄化粧に茶色のチェックのブラウスとスラックス。そして彼女によると英国のバカげたユーモアのセンスも持ちあわせているらしい― それにもかかわらず、魅力的なバレリーナのステレオタイプからは抜け出ていない。

 その例を一つあげてみると、まず、彼女の外見と話し方は穏やかで貴族的である。
髪は流れるようなストレートのブロンドで、顔色は青白く、声のトーンは少し高め。『ポリアンナ』のヘイリー・ミルズに不思議なほど良く似ている声でささやくように話す。

 批評家達は彼女の劇的、音楽的な才能を熱心に書き記している。彼女には、ジゼルやマノン、ジュリエットといった人々に良く知られているヒロイン役への新しいアプローチの方法を考え出す才能がある。
荒廃した人間でも、おてんば娘でも、彼女は純真無垢に演じてみせる。
 評論家達の見解は、「実に説得力がある」という事で皆一致している。

 昨シーズン彼女のジゼル公演の後、ある評論家は「ロイヤルが育てた中で最も直感的才能のあるアーティストである」と評した。叉、彼は「人々は才能あるパフォーマーが今何をしているのかを逐一正確に知りたいと思う」と書いている。

 今までウィルドーはバレエ団の規律をきちんと守って来た。
彼女はロイヤル・バレエスクールに学び、13歳の時『くるみ割り人形』のクララ役に選ばれた。それは、クラスの皆よりも懸命に努力する事を要求される経験だった。
「私は別に、クラスの中で傑出した生徒ではなかったの。皆は失敗するのを待ち構えていたわ。でも、クララ役すばらしかった。この役はどの道に私が進みたいのかを分からせてくれたの。」

 彼女は新人の頃からキャラクターを分析し、体に音楽を取り込む事に長けていた。
度々サラはロイヤルの、有名でドラマチックなダンサー達と一緒に舞台に立っているのだが、彼女はそんな自分を「信じられない程ラッキー」だと感じているらしい。

現在、彼女はマーゴット・フォンテーンの為にフレデリック・アシュトンが振り付けた『ダニエフとクロエ』の「クロエ」を踊る事になっている。
「クロエはとてもナイーヴな女の子なの。4人の間にはある種のすごいジェラシーがあって。彼女は海賊にさらわれちゃうの。それで・・・・・まぁ、それが話しの区切りなんだけど。」

更に彼女はマクミランの『La Fin du Jour』のプリンシパル・パートと、『眠れる森の美女』のソリスト・パート(妖精)を踊る事になっている。

更に彼女は9月に幸運を掴む事になるだろう。
ウィルドーはお役所的なバレエ団を抜けだし、ボーイフレンドのアダム・クーパーに続いてマシュー・ボーンのカンパニーに参加する事になっている。
彼女はオーディションなしでマシューの最新作『シンデレラ』の主役を演じる事になっているのだ。

「彼女を獲得出来て僕たちはラッキーだよ」とマシュー・ボーンは語っている。
「彼女以外のバレリーナは、僕たちのカンパニーには合わないよ。動きが違うし。僕たちはロイヤルで何度もサラの踊りを観た。彼女の演技は本当に観衆をつかむんだよ。彼女は型にはまったバレリーナじゃないって僕はずっと言っているんだけど、というのは、サラは本当に、明らかに独創的だからなんだ。彼女がステップを踏むと皆は初めて観たと感じる。サラは本当にすばらしいダンサーで、女優なんだ。彼女は僕たちぴったりなんだよ」

ウィルドーは『シンデレラ』に出演する為にバレエ団を4、5カ月離れる事をロイヤル側と取り決めた。
しかしマシューの『シンデレラ』はトーシューズを使わないので、テクニックが衰えないように、ロイヤルのレッスンには引き続き参加するという条件を、芸術監督のアンソニー・ダウエルはサラに出した。

「彼は最初ちょっと驚いたと思う。でも、彼は何故私がそうしたいのか、理解してくれたのだと思うの。ロイヤルでは創作なんてさせてくれないから、これはまたとないいいチャンスなのよ」
そう、ボーンは他のバレエ振付家よりもダンサーと共同で作品を作り上げていくのである。でも彼女はその事に関して少しも不安を感じていないのだろうか?
「そうね、少しは不安だけど、上手く行くと・・・・期待されていると思うの。期待されているっていう事は、ある意味で私にとってはいい事ね。マクミランやアシュトンの作品でも、自分で決定しなきゃならないから、その点では似ている。ステップの踏み方をコントロールするという事と、何を表現したいのかという事との間を行ったり来たりして、役を作っていくの」

今回の公演で、どれが彼女にとって特別な役なのか話してくれるように頼むと、彼女は
「私は自分自身をどう思っているのか話すのは好きじゃないの」
と真面目な顔で答えた。しかしこの時、評論家たちが言っている事を知っていたら、彼女は躊躇する事なく答えただろう。
「もし観客が説得力があったとか、感動したとか言ってくれたらそれでいいの。自分の全てをステージで表現し、これ以上は出来ないと感じたなら、観客を感動させる事が出来たと思えるわよね。それから、もしかすると自分が求めていた通りに踊る事が出来たのかもしれないって感じるのよ」

日本語翻訳:なつむ (1997. 8/26)

    ・このインタビューは、Los Angeles Times(1997年5/20)に掲載された記事を翻訳したものです。

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