◇ ウィーン国立歌劇場内部 以前と違い、撮影禁止が解除されていました ◇

・ウィーン旅行記 2004 vol.19・

〜 オペラ『ドン・カルロ』その1〜

2004年11月04日


 2004年のシーズンで、最も注目を集めているプロダクション。それはオペラ『ドン・カルロ』。ウィーン国立歌劇場のバックステージツアーの最後にそう聞いた時から、一体どんな演出なのだろうと楽しみにしていた夜が遂に来ました。私が今入手している情報としては、演出が独特で、賛否両論。でも、プレアから少し経った今は、だいたい良い評価を得て来ているというもの。大概のものは受け入れる懐の深さがあるというか、成熟しているというか、毒のあるものにも慣れていると思われるウィーンの観客が、ざわめき立っている作品とは一体どんなものなのでしょうか。

 今日は国立歌劇場のチケットカテゴリーでいくと、Aランクの舞台。しかも、こちらに来てから運良く入手出来たチケットで、後から知ったのですが人気が高くなかなか手に入らない様子。入手出来たのは本当にラッキーだったようです。恐らくキャンセルか何かが出て、タイミング良く我々は購入出来たのでしょう。
 今日はボックス席の最前列と料金的に一番高いシートですので、出来るだけのおしゃれをしていく必要があります。ウィーン国立歌劇場のAランクの公演でそれなりのシートとなると、ドレスやタキシード姿の人も多く、正装がスタンダード。私はダークブラウンのスーツに、ゴールドの刺繍が美しく入った長めのスカーフとアクセサリーをつけてホテルを出発します。

 ホテルから徒歩5、6分という距離にあるウィーン国立歌劇場に通った日々でしたが、これが今回最後の国立歌劇場通いになります。カラヤン広場を通り、クロークにコートを預け(ボックス席の場合、コートかけがあるので、中に持って入っても困る事はありません)エントランスへと続く短い階段をのぼります。
 低い天井の通路を横切り、正面入り口の大階段のあるフロアに出ると、今迄の圧迫感のある天井から吹き抜けにかわり、一気にこの建物の広さを感じる事になります。
 階段の周辺には案内係が数人立ち、チケットを持った観客へどこに進めばいいのかを伝えています。
ウィーンに来てからここで見た『ジークフリート』『白鳥の湖』は、いずれも土間席(1階席)だったので階段をのぼる事はありませでしたが、今日の席はParterre Loge3。つまり、土間席を1階とすれば、2階のボックス席で、舞台向かって右側、馬蹄形に列んでいるボックス席の、舞台に一番近い部屋から数えて3つ目のボックスです。という訳で、かなり舞台に近く、しかし3番目の部屋なので、真横になる事はなく、舞台全体が見え、ボックスの最前列だけに視界を遮るものはないという好条件の席です。因に、この席の価格は157ユーロ。日本でもしこのオペラの来日公演に行ったらなら・・・恐らく3倍か4倍弱はします。私などには手の届かない価格になる訳です。

 さて、この作品の演出家はPetter Konwitschny。これがウィーン国立歌劇場でのデビューになるそうですが、この時国立歌劇場では彼の今迄の作品のパネル展を行っていました。日によっては、そのパネル展にガイドが付き、ワークショップのようなものも行われるそうですが、私が見たのは写真だけ。特に印象的だったのが、オペラ「ルル」の写真です。だいたいが癖のある作品ですが、通常の解釈でいくと、ルルは魔性の大人の女。男性を誘惑し、それに惑わされる男とルルのやりとりがベルクの独特な音にのせて歌われていきます。それがKonwitschnyにかかると、ルルは金髪を耳の上あたりで二つくくりにして、大きなキャンディーを持った、でも毒のある、どこからみてもロリータなルルになっていました。なるほど。そういう演出もありな人なのだと妙に納得してしまいます。

 観客が次第に席へ着き始め、オーケストラピットにウィーンフィルのメンバーが揃いはじめます。それを見て気付いた事といえば、今日は楽団員の平均年齢が高い!明らかに高い。先の2回の公演とは比べ物になりません。今日は本物のウィーンフィルです!という雰囲気が漂っています。Aカテゴリーの場合はベテランが出て来て、BとかCの場合、若手で構成されるのだとビジュアルで分かるというのが面白いところ。もちろん演奏は、AとCだとしたら聴けばすぐにその違いが分かります。

   着飾った観客が全員席に着く頃、劇場の明かりが消えコンダクターが登場しました。拍手がわき起こり、いよいよ長い物語が始まります。予定では、5時開始で10時終演の5時間の長丁場です。
 これから見る『ドン・カルロ』はフランス語版で、全5幕。前回この劇場で観たのはドイツ語版で、全4幕でした。本来は全5幕なのですが、通常最初の「フォンテンブローの森」がカットされてしまうのです。この1幕目、実は重要だと私は思うのですが、大抵2幕目からのスタートとなるのがこの『ドン・カルロ』。1幕目がないと、王子であるカルロとその義理の母、王妃エリザベッタが何故互いに思いを寄せるのかが非常に分かりにくい。
 この1幕目では、本来彼等二人は婚約者だった事、そして互いに愛を誓っていた事が語られます。しかし、どういう運命のいたずらか、結婚相手はカルロではなく、妻を失っていたカルロ王子の父、フェリペ2世になったという知らせに二人が嘆き悲しむという所で1幕が終わります。

 今日は私が好きなフランス語版だし、全5幕だしと非常に満足して舞台に集中します。ウィーンフィルの音は生まれて初めて聴いた時の感動はありませんが、やはり前2回の響きとは全く違い、安定し、流石と思わせるものです。
 ポスターの写真には、カルロのジーンズ姿というのもあったので、一体どんなコスチュームなのかと、内心ちょっと余り斬新なのよりも普通にして欲しいと思いながら祈る気持ちで見守っていると、拍子抜けなほど普通の時代物のコスチュームでコーラスが登場。ああ、何だか普通すぎるほど普通で、逆に肩すかしです(笑)

 人々は森の中で暖を取るべく四角い箱のようなもので薪を焚いてあたっています。スペインとフランスの長く続く闘いを嘆く樵達の歌が流れる中、カルロ(Ramon Vargas)とエリザベッタ(iano Tamar)が登場。カルロの声は素晴らしくのびるテナーとは思えませんが、それなりの声を響かせています。私としては、『ドン・カルロ』で楽しみなのは何といってもポーザ候とエヴォリ公女、そしてフェリベ2世なのでさほど気にならず(笑)エリザベッタも、感動!という程の歌声ではありませんが、主役級だなと思わせる声を響かせていて、やっぱり聴きに来て良かったと思わされます。
 カットされる事が多い1幕だけに、あっという間に終了。そんな短い時間の中で、一番印象に残ったのは!何とそれは!こんな贅沢なオペラを見に来ていて、心に残ったのはそこなの?それなの?と、バカにされそうですが(笑)何といっても、薪を焚いている薪用の四角い家具みたいな小道具!パチパチ木が燃えてるみたいに赤い光が出るようになっているのですが、これがですね。この薪用小道具には何と!長〜い長い電気のコードがくっついていたんです!しっかり見えちゃってるんです。フォンテンブローの森には、何と電気が通っていたという。ふふふ。しかも、樵がその薪をくべている入れ物を抱えて移動させる時に、舞台袖から繋がってるコードがブラーンとこう、一緒に移動する訳ですよ!仕方無いのかもしれませんが、あのコードはかなり笑えました。いいなあ、この手作り感。いや、これはちょっと詰めが甘かった?何せ長いコードに絡まりそうになってる人も居たぐらいですから。

 するするっと1幕が終わり、やっぱりフランス語の響きはいいなぁと余韻に浸っているうちに、カルロとポーザ候の、私が大好きな二人のデュエットを含む2幕がスタート。
どんなポーザ候なのか期待に胸が膨らみ、私の体に心地良い緊張が広がってきました。


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