H124
大病院への受診阻止は、「かかりつけ医」達のためではないのか。大病院のための金銭徴収という大義名分はうさん臭い −マスコミ業界と、役所、医療業界との“癒着”が疑われる−

 11月19日の読売新聞は、「紹介状ない大病院の受診、初診時の別負担を7千円まで引き上げ検討」と言う見出しで、次のように報じていました。
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紹介状ない大病院の受診、初診時の別負担7千円まで引き上げ検討
2020/11/19 06:43 読売

 厚生労働省は、紹介状なしで大きな病院を受診した患者が支払う負担額について、
2000円増額する方向で検討に入った。大病院に患者が集中することを避け、軽症者は身近な「かかりつけ医」を受診するように促す。2022年度までの実施を目指す。

 現在、
紹介状なし大病院を受診した場合、1〜3割の窓口負担とは別に、初診で5000円以上追加で支払う必要がある。厚労省は、この負担を7000円程度に引き上げて、大病院が専門治療に集中できる環境を整えたい考えだ。

 現行制度では、病床
200床以上の「地域医療支援病院」と「特定機能病院」の計666病院が追加支払いの対象となっている。対象となる病院の拡大を合わせて検討する。高額な医療機器を使ったり、化学療法を行ったりする専門的な医療機関を加える方向だ。

 公的医療保険の財政負担を軽減する狙いもあり、19日に開かれる社会保障審議会(厚労相の諮問機関)の医療保険部会で議論する。12月上旬にも取りまとめる全世代型社会保障検討会議の最終報告に盛り込む。
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 この問題については、過去に
短期間に何度も小刻みに制度の改定が繰り返されていて、私がこのホームページで取り上げただけでも、過去6回に及んでいます。その要点は下記の通りです。

(過去6回の要旨)
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H76 医師会の医師会による、開業医のための“かかりつけ医”への受診強制−(患者の自己決定権尊重の真逆を行く厚生労働省の診療報酬改定 基本方針)
          対象病院のベッド数       
(追加料金)
 2015年     
200以上       規定無し(実施は任意
          
1200病院が実施    (実態105円〜8400円

                       (定額負担)
 2016年から(案)
500以上       一律 5,000円〜10,000程度
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H91 大病院が紹介状のない軽症患者を敬遠しているというのは本当か −そう言っているのは“かかりつけ医”だけではないのか−
             ベッド数        
(窓口負担)
 2017年現在    
500床以上     初診5,000円以上 
                       再診
2,500円以上

 2018年度(案)  
400床以上

 国立大学では運営費交付金の不足分を補ぅのに
大きな期待を担わされているのが附属病院収入であり、附属病院収入は増えて40%を占めるまでになった。

 私立大学医学部の教授に転身したとたんに、「毎月の会議のたびに、診療科別の
売上を示され」患者を増やすように言われる」と嘆いていた。
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H99 国立大規模病院は本当に、かかりつけ医の紹介状のない軽症患者の来院に迷惑しているのか −赤字に悩み、患者数の増加に力を入れている国立病院機構−

「国立病院機構」が、2016年度に設立以来初めて赤字に転落。
収入の大部分を占める
一般大規模病院では、病床利用率が低下していた
 改善計画
「患者数を増加させる」

              ベッド数         
(選定療養費)
2018年現在      
400床以上       初診 5,000円以上
                          再診 
2,500円以上
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H113 大病院での患者負担追加料金強制の目的は開業医への患者誘導 −患者のことは眼中にない厚労省と、それを見て見ぬ振りして報じている読売新聞−

             ベッド数            
(定額負担)
2019年     
400床以上(420病院)   初診 5,000円以上
  〃       
200〜399床(任意)    平均 2,500程度
2020年(案)  
200床以上(670病院)   初診 5,000円以上
                            再診 
2,500円以上

200床以上の病院は現在でも、初診の
追加料金を徴収することができ、厚労省によると、200〜399床の病院では平均2500円程度を徴収している。これを5000円以上に義務化する方針だ
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H114 病院(特に国・公立)は“営利企業”ではない “赤字”が問題にならないのは公立小中学校と同じ −赤字を問題視するのは、公立病院潰しと私立病院・開業医支援が目的−

国公立の病院では人件費の増加などで赤字の状態が続く一方、民間病院黒字
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H117 大病院が本当に“かかりつけ医”の紹介状を持たない患者から、特別費用の徴収を望んでいるなら、金額の下限を定めて強制する必要はない −いい加減な制度が、何の抵抗も受けずに素通りしていく政治の現状は、極めて憂慮すべき−

          ベッド数            
(定額負担)
2018年    
400床(430病院)   初診 5,000円以上
                       再診 
2,500円以上
2020年     
200床(670病院)   初診 5,000円以上
                        再診 
2,500円以上
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今回の記事 H124
          ベッド数          
(負担額)
2022年予定 現行
200床(666病院)  初診 7,000円以上
        より拡大する         
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制度の変遷の経緯を見ると、次の様なことが言えると思います。

1.制度創設、改定の理由はいつも「
大病院高度・専門医療専念するのを助ける」と言う事で一貫している。それにも拘わらずなぜ短期間に頻繁に制度改定・強化が繰り返されるのであろうか。患者の開業医不信(大病院志向)が想像以上に強固であり5,000円負担では、患者の「かかりつけ医誘導」が思うような効果を上げていないことと、一度に高額な金銭の徴収制度を制定すると抵抗が生じるので、それを回避するために計画的に「小出し」にしている事が考えられる。

2.軽症者は大病院を受診せず、「かかりつけ医」を受診するように求めているが、
「かかりつけ医」の定義が全く無い。「かかりつけ医」という言葉は、現在日常使われることはほとんど無い(実態がない)。制度の根幹に疑義を抱かせる。

3.徴収する金銭の額についてはほとんどの場合、一律
一定金額を下限として設定して、それ以上の金額を徴収するとしていて、上限は定めていない。

4.例えば初診時に
一律「5,000円以上」と決められて実施されている現状での、平均金額、最高金額、金額の分布の情報が知らされておらず、なぜ引き上げが必要か何の説明もない。それにもかかわらずすべての病院に対して、しかも現行200床以上を更に範囲を拡大してまで、一律金額の下限を大幅に引き上げる理由は何か。上限が定められていないのであるから、金額が5,000円では低すぎて効果が無いと判断する病院は、自らの判断で引き上げができるはずである。

5.制度発足当時、金額が
任意であった時は、実態は105円〜8400円であったと報じられている。また2019年に、200〜399床の病院の実施が任意であった時の平均額は、2,500円程度と報じられている。最低金額5,000円の金額の妥当性には疑義がある。

6.国公立病院の中には経営上
多数の患者を求めている実態があると報じられているが、これは「軽症患者の受診阻止」とは相容れない実態ではないか。制度の検討に当たってそれらの実態が、全く考慮されず無視されている。制度の決定経過に不備があるのではないか。

7.徴収が
義務づけられている金銭であるにも拘わらず、その金銭の名称が明らかでない(定められていない)。過去の報道では、(追加料金)、(定額負担)、(窓口負担)、(選定療養費)、(定額負担)、(別負担)となっており、完全にバラバラである。
 この制度が法令に基づき、きちんとした手続きで定められているのなら、
考えられない実態であり、法令の基本から脱線・逸脱した位置づけとなっていて、その名称を表に出せない事が疑われる。「かかりつけ医」の問題と合わせて、極めていかがわしい制度である。

8.大病院、高度医療、専門医療における、
「大」、「高度」、「専門」程度・範囲、病院の設置されている環境千差万別であり、仮に追加徴収金が必要であったとしても、その金額が一律である必要は無く、幅を持たせることが必要・有効であり、その場合に於いて、下限だけを設定して、上限を定めない理由はない。むしろ上限だけ定めて、下限を定めない方が必要・有効と言える。

9.
マスコミ役所の発表をそのまま報じるだけで、実体を取材するなどのマスコミのなすべき事を何もしていない。マスコミ業界と、役所、医療業界との“癒着”が疑われる状況である。

令和2年11月22日   ご意見・ご感想は こちらへ   トップへ戻る   目次へ