Vol.9

<ACT THREE>

- A CONVALESCENCE HOME -

そっと中をのぞいて見ると、一人の男が椅子に腰掛けていた。部屋の中は彼以外だれも居ない。
シンデレラはその男の後ろ姿で彼がハリーである事を見抜き、喜びいさんで駆け寄った。こんな病院から早く立ち去ろうと立ち上がった男の肩に、彼女は手をかけて振り向かせた。シンデレラはハリーに接近し、私を思い出してと彼にアピールする。しかしハリーにはどうも分からないらしい。
シンデレラは「そうだ!」と思ったように急いでメガネをはずした。すると今度はハリーが胸ポケットから自分のメガネを取り出してかけた。実はハリーも目が悪く、彼には今の今までシンデレラがボンヤリとしか見えていなかったのだった。

メガネをかけて良く見えるようになったハリーは、漸く目の前にいる女性がロンドン中を探しまわったシンデレラであると分かり、喜びのあまり彼女を抱きしめようとする。しかし、今の彼にはダンスホールでの大胆さはかけらも残っていなかった。あの時の彼は夢の産物で、実際のハリーは真面目でオクテ、そして地味な青年なのだ。

両手を広げたものの、抱きしめる寸前のところで彼は躊躇してしまい、二人は何となく気まずい雰囲気。メガネをかけたシンデレラは恥ずかしそうにハリーのまえでもじもじしている。そんなシンデレラにハリーはこの病院を出ようと告げる。

揃って二人は歩き出したが、ぴったりと寄り添ってはいるものの、手の甲と甲とがお互いの手を握りたそうに触れあってはいるものの、彼らはそうする事が出来ない。恋に不慣れな彼らは自分の心と行動のずれにもどかしさを感じている。
しかし、遂にハリーが思い立った様に手に持ったトランクを投げ出した。
今度はしっかりとシンデレラを抱き上げ、ハリーはシンデレラにキスをした。それも熱烈なキスを・・・・・

- A RAILWAY STATION, 00 SOME MONTHES LATER -

駅では恋人たちが別れを悲しんで抱きあっている。列車の到着を待ちながら、彼らは少しでも相手のぬくもりを覚えておこうとお互いを抱きしめている。これから出兵する恋人を涙ながらに見送る女性達。そこに列車が到着し、今度は再会を喜ぶ恋人達でホームは一杯になった。駅はそれを繰り返しているのだ。

そこに沢山の見送りを連れてシンデレラとハリーが現れた。シンデレラの義理の兄弟、姉妹達も彼らの門出を祝っている。ともにメガネをかけた二人はすっかりお似合いの夫婦という感じだ。二人は幸せそうに互いを見つめ、微笑みそして見送りの人々に別れを告げる。もうそろそろ出発だ。シンデレラはハリーに「今何時?」と尋ね、彼は腕時計を見た。その時、エンジェルが現れ全ての時は止まった。

エンジェルはシンデレラに別れを告げに来たのか。彼女は振り向きエンジェルに駆け寄る。他の人々は全て動きが止まったままである。
エンジェルにシンデレラはお礼を告げる。そんな彼女にエンジェルはさあ、旅立ちなさいと彼女に別れを告げる。彼女の幸せな様子をエンジェルは喜んでいるのだが、どうやら少し複雑な心境のようだ。巣立ちを促す親鳥のように、そして片思いを貫き通しキューピット役を無事務めた悲しい男の様に、エンジェルはシンデレラを送りだそうとしている。
エンジェルが再び時間を元に戻すと、何事もなかった様に動きはじめた。もう出発の時間だ。義理の長男が彼の友人(恋人未満?)に別れを告げている。恋人達はとうとうやって来た別れの時に涙し、男達は列車に次々に乗り込んでいく。
そして、ハリーとシンデレラも手に手をとって列車に乗り込んだ。シンデレラはエンジェルに最後の別れを告げる。そして今、列車は動き始めた。

ひとけの無くなったホームにエンジェルは一人佇んでいる。列車を見送りその場を離れようとした時、一人涙しながら椅子に腰掛けている女性がカフェにいる事に彼は気がつく。恋人との別れを泣いているのだろうか。テーブルに両ひじをつき、彼女はそこに顔をうずめる状態で涙にくれている。
そんな彼女の肩にエンジェルはやさしく手をかけた。そして、彼女はエンジェルの顔を見上げた・・・・・・・

<CURTAIN CALL>

駅のホームはお祭り騒ぎ。紙吹雪の舞う中、恋人達が楽しげに踊っている。
そこにハリーとシンデレラが、エンジェルが乗っていたサイドカーつきのバイクに乗って登場。皆の顔には喜びがあふれている。
そして幕が降り、ハリーの乗ったバイクのライトの光だけが会場に残った。

・・・・THE END ・・・・

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