2014年8月、シアターオーブで『War Horse』で観た時、ブロードウェイでアダム&スコットの『Swan Lake』を一緒に観た友達と次の公演である『マシューボーンの白鳥の湖』のポスターを見ながら「どうする?」「最高のキャストで見てるからなぁ」「それをわざわざ上書きするのはという気が」「あるよね・・・」「でもどんな風になってるのか」「気にもなるよね」「でも美しい記憶を」「壊す事になったら怖いよね」と行きつ戻りつつする会話をしてから数週間後。
途中、シルヴィ・ギエムの感動的な『ボレロ』を観て、やはり舞台は一期一会。良くても悪くてもやっぱり観る事に意味があるという心境の変化を経て、青森旅行からの帰り、途中下車して観に行く事にした。
もちろん、NYで観た後、首藤バージョンを含む色々なThe Swanを観ている。ブロードウェイではWill KempのThe Swanも観た。でも私にとっての最高のThe Swanはアダム・クーパーであり、王子はスコット・アンブラーである事は変わらない。スコットには本人に直接「私の王子はあなただけ」と告白もした私であるが(笑)今回の公演を観るにあたり期待したのは、主役の二人ではなく、この作品が持っている力の再確認だった。
出来たらゴメスとマーニーがいいけどマチネだから無理だろうとも思っていた通り、やはりゴメスは同日のソワレ。予想通りとはいえかなり残念で思わずソワレを観られないか終電を調べてしまったが、それは無理だと分かり逆にすっきりした。後はWOWOWが放送してくれる事を祈ろうと自分に言い聞かせる。
さて、キャストである。The Swanはジョナサン・オリビエ。王子はサイモン・ウィリアムズ。ジョナサンは、3人のThe Swanの中で一番人の良さそうな顔をしている・・・ストレンジャーはどうなるんだろう。と勝手に心配しながら劇場へ。
久々に見る羽ばたく白鳥のシルエットのスクリーン。ああ、懐かしい。変わっていない。シアターオーブの座席は、結構見やすく今回も視界はなかなか良好。急に観劇を決めたので、1階のセンターではなく右寄りの席だったが全く問題はない。用意してくれた友人に感謝。 そして幕が上がった。
おなじみのオープニング。そして起き上がる王子。あれ?幼少の王子は出てこないと聞いてけど。。。ちっちゃ!!もしかしてヤングプリンス??いやいや、どうやらそうではないらしい。サイモンって小柄なのだ。うーむ。これはもの凄く、普通の人、っていうか、これはより悩みが多そうなプリンスで。『僕って普通すぎるよね。小柄だし、ちょっとぽっちゃりしてるし。皆から好かれてるとは思えないし。僕って、僕って・・・』とよりトラウマとかを抱えていそうに見える。まあ、これはこれで、ありなんでしょう!そして、白鳥のぬいぐるみが、幼少の王子カットとともに消えてしまったのは。うーむ。これは物語の大切な要素のはずなのに。白鳥と王子の関係性が初見の人には分かりにくくなっている。これでは、「白鳥の湖」だから白鳥。という事になってしまうではないか。テディベアのような存在の、子供の頃から助けてくれた、心のよりどころのスワン人形、カムバック!!
さて、レズ・ブラザーストーンのセットと衣装である。大きな変化はない。が、とても良い。相変わらず洗練されている。全く古くない。ああ、作品全体が全く古くなっていない!!素晴しい。無駄のないセット。色彩。変わったところといえば、ペットのコーギーが若干毛深くなったところだろうか。しかし、幼少のプリンスが居なくなったにもかかわらず、「お手振り、式典」のご公務シーンは変わらないので、同じ事を2回繰り返す王妃と王子の姿は、昔とはちょっと違ったものになってしまった。子供の頃からずーっと同じ事をさせられている、という内容から、毎日日々繰り返しです、というシーンへの変更。やはりここは、無理をしてでもスワン人形とセットで幼少の王子をつれて来て欲しかった。
今回観ていてあれ?と思った事がもう一つ。報道官の描かれ方だ。初期の頃は、彼の存在はもっと大きかった。悪巧みをしている、国をのっとろうとしている男ぐらいのインパクトがあったが、今の彼の存在感はかなり薄い。「たくらむ男」度がかなり低下している。おや?と思うほどに。
ガールフレンドとの出会いを経て、劇中劇へ。本当に良く出来てる作品だと感心して観てしまう。相変わらずこのシーンはおかしい。そして設定が秀逸。木こりと蝶の妖精って。
バーのシーンは、若干中の人たちの動きがマイナーチェンジされているが大きな変更はなし。それにしても、マシューの音の使い方には舌を巻くばかり。何と見事な音使い。オーダーメイドのようではないか。改めて彼の凄さを思い知る。
ファンダンサーはかなり高齢設定なのか、ステップを踏むのが大変そうで、これまたマイナーチェンジ。幼少の王子が居ない為、ガールフレンドが少年にお金を渡すシーンもカット。ガールフレンドが王子に心を動かされている事が分かる大切なシーンなのに残念。
さて、いよいよThe Swanの登場、公園へ。ああ、やはりレズのセットは美しい。初期と変わったのは、水面がはっきりと見えるセットになった事ぐらいだろうか。それにしても、「一国の王子」が遺書をゴミ箱の紙くずに書いてチューインガムで貼付けるって、何度観ても笑える。ガールフレンドとの出会い方といい、この後の展開といい、この国かなり小さいよね!!!と思ってしまう。
そして、劇的な音とともにThe Swanが登場。ジョナサンは長身でなかなか良いじゃないか、というのが第一印象。舞台から結構距離があるので表情は分からないがしっかりThe Swanに観える。ただし、アダムの時のようなハートをギュっ!とわしづかみにされるような事は無い。いや、最初から期待していないから大丈夫なのだが(笑)彼がどうこうではなく、アダムが特別なのだから、それは言っても仕方ない。ほかのSwanファンの人から文句を言われても、私がアダムのSwanが好きだ、という事は私の好みなので仕方ない。
The Swanと王子を観ながら、本当この作品は良く出来てるな〜と感心する事しきりなのだが、「切ない」「きゅん」「キャー」はなく、坦々と鑑賞。今回改めて、おお!っとなったのはSwan達だった。群舞の動きが実に美しい。素晴しい。マシュー天才!である。最初にSwan Lakeを観た時。あれは私にとって事件だったのだが、あの時受けた衝撃は間違いなかったと再確認。やはり今日観に来てよかった。
休憩を経て、ボールルームのシーンへ。ここでもまた群舞の美しさにため息。マシューは男女を問わず何と魅力的に動かして魅せる事よと感心してしまう。
そしてThe Strangerの登場。遠目なので、彼の人の良さそうな表情は見えず、それがちょうど良かったようで(失礼な。笑)しっかりStrangerに見えてほっとする。(余談だがオペラグラスで観ていた友人は、人の良さそうな顔が…と言っていた)女王の手を取り、腕までキスをするシーン。リチャード・ウィンザーよりは良いけど、アダムのような舐め上げる大胆さには及ばず・・・って、このシーン、Stranger役の考えどころなのだろう。どのパターンで行くのか、ここで個性を出す!みたいな事がありそうだ。
ウォッカの飲み比べの後、次々に女性と絡むシーンで、少し振り付けのチェンジがあり、ガールフレンドが相手にされないけど入り込もうとしていた。この変更は不要なのではないだろうか、と個人的には感じた。この後のシーンで、王子が撃たれそうになった時、身を投げ出して彼を守る彼女である。報道官から渡されたお金を少年に渡すシーンもなくなっている今、彼女の一途さを表現する為にはこのシーンは不要に思える。
ところで、このシーンの見せ場の一つ、王妃をStrangerがエスコートしながらテーブルを超えてくシーン。振り付け変更なのか、上手くいかなかったのか、端から端までのテーブルを超えて行くシーンで、私が観た時にはそれがクリアできず、同じテーブルを2度超えたり、ほぼ舞台中央でこのテーブル超えが終わってしまった。このシーンの前にある、Strangerが女王のテーブルに飛び乗るシーンも位置確認をしてから飛び乗っているというのが感じられて、大胆さと力強さが少々無かった気がする。難しい動きなのだろうとは思うがそこが残念だった。
それにしても、Strangerを取られたと思い王妃を撃とうとする王子って(笑)またその王子の連れ去られ方も凄い。殴られた上、引きずられて撤収される。マシューらしい(笑)そしてやっぱりこの国小さいよね!と勝手に突っ込みを入れて遊ぶ。
続くロボトミー手術的シーンでは、白い壁を利用した影の演出が秀逸だと唸らされる。多くを我々に伝える影。上手い。本当に上手い。
そしていよいよベッドルームのシーンへ。白鳥達の動きが妖しく、恐ろしく、美しくて目が離せない。何とフォトジェニックな。一度見たら忘れられない光景。白鳥達がベッドの上に勢揃いして威嚇するシーンの、何と美しい事よ。チャイコフスキーに見せてあげたい。さぞかし喜ぶ事だろう。
そしてエンディング。何とも悲しい、でも美しい物語の最後。幼少の王子が居ないので、大人の王子を抱きしめるThe Swan。そして幕。
今回数年ぶりに舞台で観て感じたもの。それはこの作品がこれからも繰り返し上演され、生き残って行くだろうという確信だった。チャイコフスキーの音楽が、最初からこの作品の為に作られたかのように錯覚させてしまう振り付け。全く古くならない舞台セット、そして衣装。
いろんなThe Swanと王子がこれからもこの物語を紡いで行く。これからも、どんな二人が生まれてくるのか。とても楽しみである。
オリジナルキャストは私にとってのベストだが、いまやこの作品はそれを超え、「古典」と言われる作品と同じように、「今回の主役はどんな風に演じるのだろう」というものになった。
幼少の王子とSwan人形は元に戻して、末永く踊り繋いでいって欲しい作品である。
<後日談>
帰宅後、久々にアダム・クーパー、スコット・アンブラーの「Swan Lake」をDVDで観た。ワイド画面ではなく、若干荒い映像に時代を感じさせられたものの、やはり登場からハートわしづかみにされてしまった。切なさが半端ではなく、きゅんきゅんしっぱなしである。画面の前で「キャーッ」と声を出してしまったぐらいの相変わらずの重症ぶりである。改めて、この映像を残してくれたBBCに感謝したい。そして、出来ればゴメスの映像を!WOWOWさん、よろしく。
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